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幕間:鈍色の煌き

青年は作業の手を止め、眉間を強く摘んだ。

―――目を酷使しすぎです、と、彼の遣い魔たる少年がその場に居れば言われただろう。
残念ながら彼の作業の邪魔をしないように配慮したのか、少年も幼子も居ない。

彼の手元には小さな金属パーツが数種類と、石を研磨したらしきパーツが一種類。
石の方は色味も統一されているが、金属パーツの方は恐らくは基は同じものであろうが
鈍くも様々な色合いに煌いて、無秩序に散らばっていた。

続き

「……進捗はどう?」

不意に、青年以外に誰も居ないはずのこの場に声が響く。
アルトに近いメゾソプラノのその声は、青年の背後からかけられた。
同時に、何者かが近づいてくる気配も彼は感じただろう。
だが彼は振り返りもせず、眉間を指でほぐし何も応えない。

「あら…随分拵えたのね…」

作業台を覗き込んだのか、直ぐ後ろから驚きとも呆れともとれる声が零れる。

「……扱った事ねぇやつだからな。そもそも、金属加工は苦手だってお前も知ってるだろ…」

ようやっと眉間から手を離し、青年は声の主に応じた。

「そうね。でも、多少は扱えるようになったのでしょう?」
「どうだか。自己満足の域に過ぎないと思うがね」

問いに素早く切替しつつ、彼は無秩序に散らばった中から幾つか拾い上げる。

「最初の試作よりはマシになったと思うぜ。俺は赤みの強い方が好きなんだが…
 ま、とりあえずこの辺持ってって見て貰ってくれ」
「悪いわね、手間かけさせちゃって…他にも作らないといけないものがあるのでしょう?」
「まぁな。まぁそれはそれ。お前のたっての頼みとあったら断れねぇし?」

若干の皮肉を込めた声音でそう言い、青年は振り返って声の主にニヤリと笑む。
彼の皮肉に、声の主はただ苦笑を浮かべ、ありがとう、と、ただそれらを受け取る。

「ま、こっちもこっちでいい勉強になってっから。
 …絶対縦に首振らせたい、って意地も入ってきてっけどね」
「ふふ…貴方が意地になればなるほど、あちらもハードル上げてきそう」
「そいつは困るな」

青年も苦笑を浮かべたが、それも一瞬の事。
二人とも殆ど同時に苦笑を崩してくすくすと笑いだす。

「その時は」
「その時ね」
「だな」
「ええ…じゃあ、私はこれで。また来るわ」
「おう、またな」

互いに微笑みと挨拶を交わし、彼等の会話はそこで途切れた。

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