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幕間:鈍色の課題

灯りに追いやられ、部屋の隅に圧縮されていた影達が揺らめく。
最初はほんの漣程度。次第に振幅が大胆になり、溶岩のように
ぼこぼこと膨れ上がり始める。

幾ら背後で起きている出来事とはいえ、それに気が付かない筈が無いのに
部屋の主―――青年は作業場所と定めたそこから動こうとも、いや、
振り返ろうともせず、ただ黙々と作業を続けていた。

如何に禍々しい現れ方であったとしても、歓迎こそすれ
拒絶すべき相手ではないことを知っていたから。

続き

「あら…また作業してるの?」

背後から降る声はつい先日も聞いたアルトに近いメゾソプラノ。
呆れとも驚きとも取れる響きも同じ……より、気持ち柔らかな印象を
与えるのは恐らく気のせいではないだろう。

青年は作業の手を止め、盛大な伸びと深呼吸を一つすると
座ったまま声の主に向き直る。

「こいつは俺用……正確にはカーシャ用だな。
 郁葉晶と似たようなもんだが」

何分発想力も技術も無いものでね、と、自嘲気味に――それでもどこか
楽しそうに青年は笑い、直ぐに表情を引き締めた。

「そんな事より、結果を聞かせてくれ。
 あちらさんがYesと言ってくれたモノがあったかどうか」
「もう。せっかちね…」

今度は完全に呆れた声が形の良い唇から零れた。
しかし、絶えぬその笑みは結果を雄弁に物語っていて
青年の顔にも「してやったり」と言わんばかりの笑みが浮かぶ。

「最後に創ったと言っていたあれ。あれ望んでいた色だそうよ」
「あれが? かなり地味色になっちまってたやつだよな?」
「ええ。
 …彼女、アンティーク調が好みだった筈だから…だからでしょうね」

ぽん、っと青年が手を打つ。
彼の中に有った違和感。その歯車が漸く噛み合ったらしい。

「アンティーク…成る程、そうかアンティークか…!
 全然発想が無かったぜ。

 いやはや…これだから金属加工は…いや、モノ作りは奥が深い」

うんうんと頷く青年に、彼女はただ微笑む。
―――暫しの沈黙。

終わるかと思えた会話を続けたのは、彼女の方。

「それで、もう一つ協力して欲しい事があるの」
「ん?」

唐突な申し出に青年は片眉を僅かに上げた。
品が完成したのなら、後は女の――女と彼女を手伝っている者の仕事であろう。
明らかに警戒と圧力を含めた青年の視線に、彼女は困った表情を浮かべ

「命名とかもお願いされてしまったの。
 これ以上間に入ってくれてる子に借りを作るわけにもいかなくて…だから」
「だから、俺に考えてくれって?」
「違うわ。勿論私が考える。でも、一人ではどうしても上手く纏らない。
 ヨクトには案を纏める手伝いをして欲しいのよ。

 創り手としての意見と…
 ……あちらで散々詠ったという、言葉遊びの経験を期待して」
「…………妙なプレッシャーかけるんじゃない」

吐き出された盛大な溜息は、微妙に緊迫した空気を解していった。

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