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幕間:創作喧嘩の一幕

side:翼人

続き
「へぇ、結構数採れたんだね」

浅いトレーに並べられた桜色の鉱石たち。
2~3センチ強の大きさのものが4つ、その半分に満たないもの・欠片が更に幾つか。
先日、六式神社の主たるこの青年・クロウから依頼を受けて預かった原石…
母岩というのが正しいだろうか、それから採取した宝石質の結晶だ。
依頼された時に思ったとおり、小さいながらも大変良質な結晶ばかりで、
研磨を全くかけていなくとも充分美しい。
その分採り出すにもかなりの神経を使う作業となったが、それはそれで楽しかったのは公然の秘密。

「まぁな。でもそのまま『カンテラ』に使えそうなのはこの橙が入ってんのと…
 これとこれとこれ、4つだな」
「4つか……」

カウンターの鉱石たちに視線を落としながら、クロウは腕を組む。
複数作ることは最初から決まっていたが、その数は採取された石の数に左右される。
大方、誰に配ろうかとか考えてるんじゃなかろうか。

…まぁ?
『そのまま使える』のが『4つ』であって。
『カンテラの数も4つ』とは言ってないんだがね。
とは言え、そのあたりは蛇足の話。
まずは依頼品、『鉱石を炎に見立てたカンテラ』を作るところから。
カウンター奥、作業台の一番上に置いてあったスケッチブックを手に伸ば

カランカラン.....

したところに開く扉、入り込んできた柔らかな風と少女に自然と笑みが浮かぶ。

「翼人お兄さんこんにちわー! あっ。クロウさんもこんにちわっ」
「よぉ、いらっしゃいヒナ嬢」
「ヒナちゃん。こんにちわ」

慣れた様子でカウンターに近寄る彼女のため、手にしたスケッチブックは一旦
カウンターの横に置く。店側からは見えないカウンター下部分の収納から
彼女専用になっている優しい色合いのティーセットを取り出し、いつものようにお茶を出す。

普段なら感謝の言葉と共に席に着く彼女はしかし、カウンターの傍まで来たものの、
席につこうとはしなかった。

「ん? どうした?」

常とは違う愛しい妹分の様子に、首を傾げて訪ねてみれば
彼女は俺とクロウの顔を交互に見て

「えっと…もしかして、お邪魔かなって…」

とのこと。
思わず俺とクロウが視線を合わせたのは不可抗力、という奴だろう。
互いに言葉は交わさなかったが、意思は伝わったと思う。
ふわりとクロウは笑って、そんな事無いよ、良かったら見てって、と言ってくれた。
俺も笑って頷けば、心なしかほっとした顔で彼女もいつもの席に着く。

「ヨクトにこの鉱石でカンテラ風のアクセサリーを作ってもらおうと思ってね。
 今日は採れた石の確認と、デザインの打ち合わせをしてるんだ。

 …って、そういえばまだデザイン見せて貰ってないよ?」
「先に石の確認して貰おうと思ったからな。前回ざくっとイメージは話したし
 その場でざくっとラフも描いたから後回しでいいかなと」

言いながら、先ほど一旦取り置いたスケッチブックを再度手に取り、目的のページを捲る。
そのページを開いたままカウンターの上に乗せ、とん、と人差し指でスケッチブックを叩いた。

「え?!」

声をあげたのはヒナ嬢。クロウもちょっと驚いてるか?
そういえばこの技、こっちに来てから表で使うの初めてだったか。
――描いたものを描いたところから抜けさせて実体化させる技。
オリジナル時代にはコレで深度不明巨大釣堀の多様な水生生物を『創った』ものだ。

実物を使って試作品を作っても勿論良かったんだが、カンテラ本体の形にもまだ
変更が入りそうだったからな。ならばこちらの方が良いだろうと思ったまで。
実際の大きさも確認できるからね。

このまま実体化させればいいじゃないかって?
残念ながら、コレはこの店の中だから出来る芸当だ。

丁度二人の視線の高さに浮かび、ゆっくりと回転する古美銅の小さなカンテラ。
先端の輪には細い銀の小豆チェーン。
トレーに並ぶ石たちの中から、先端が橙色になったものをそっとピンセットで掴み、
実体化させたカンテラにセットする。

「要望通り、四角の極シンプルなカンテラだな。底面を少し絞った形にしてみた。
 灯す為の機能は底面に魔方陣を仕込んで賄う予定だ。屋根は初期案のまま。

 ――忌憚の無い意見を頼むぜ、クロウ?」

前回「喧嘩しようか?」と言った時と同じ笑顔を浮かべて言ってやれば
クロウはそれで察したらしい。
すっと彼の纏う雰囲気も真剣味が増す …といっても、真面目に時々盛大にボケてくれるからなー。
冗談なのか本気なのか稀にわからなくなるときが有る。先日依頼を受けた時のビームもそうだ。
…あ、そういえばそれどう仕込むか考えてなかったや。

「…このままでも充分使えそうな感じだよ…けど、そうだね。
 
 うん、まずは。鎖って言ったけど、紐に変更して貰えるかな」
「紐? 紐って言っても色々あるな…革紐とかか?」
「ううん。先日、市でみた懐中時計が鎖じゃなくて組紐が付いてて。
 これだ!って思ったんだ」

ふむ、とスケッチブックにそれをメモして。
はたりと思いつく。

「……なぁ、組紐だったら、クロウかサクラ、作れるんじゃないか?
 神社でお守り作るのに作ってるだろ」
「…あ!」

その発想はなかった、という顔を浮かべるクロウに、俺達のやり取りを見守っていたヒナ嬢が笑う。

「凄い! クロウさんと翼人お兄さんの合作になるね」
「だなぁ。
 神社製組紐だったらご利益も有りそうだし、配る予定なら尚いいんじゃないか?」

俺も誰かと合作するなんてことまず無いわけで。
これは貴重な機会になりそうだ、『喧嘩』以外の楽しみも出来たなと、
にまりと口の端をあげてクロウの返事を待った。

  • 2018/09/30
  • 創作モノ::幕間/AUC