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幕間:灼熱の大地を臨む

赤く乾いた大地を照らす灼熱の太陽が沈む。

続き
夜の帳がひたひたと東から空と大気を侵し、それと比例するように急速に大地は熱を失っていく。
熱を帯びて砂を巻き上げていた風はその勢いを失いながらも、奇妙に熱く冷たい温度で夕日の朱を弾く青みを帯びた銀の髪を揺らして消えて、

 嗚呼、懐かしい。

不意に浮かんだその思いに、ふ、と昼と夜が混じる時を眺めていた目を細めて彼女は哂った。

 ――違う。これは僕の思いじゃない。

その証拠に胸中に懐古の想いは沸かず。
この胸に在るのは『火の大地』への純然たる親近感と、遠征以外で初めて訪れる土地だという好奇心、これからこの巡りを通して営まれる珍しい共同生活に対する期待。

浮かんだ思いは必要に駆られて受け継いだ『母』の記憶によるものだろう。
すっと目を伏せれば眼裏に浮かび上がる、夜には青白く発光する紅い砂の海と、その上空に浮かぶ要塞。

 あかくて乾いた地なのは似ているけれど、でも、それだけだよねぇ…

かの地で過ごしたことの在る兄ならば、母の記憶から引き起こされた感傷に近い感想を憶えるのかもしれないけれども。
やれやれとでも言うように、眼を閉じたまま彼女は頭を振った。
考えてもどうしようもない。
家族の中で唯一、かの紅の大地を体験したことがないのは少々悔しいが。逆に言えば、現時点でこの赤い大地を体験しているのは自分一人だけなのだから。
兄が来たいと言ってもこの巡りはNGだとおじさま――翼人に伝えよう、と一人重々しく頷いて。

「スィン嬢? ご飯ですよ!」
「今行くー!」

自分を呼ぶ声に思考を切り替え、彼女はとんっと地を蹴る。
すっかり冷たくなった大気が肌を刺していくこと一瞬、不可視の翼を広げて音もなく大地に降り立つと、足取り軽く走り出した。

  • 2019/08/21
  • 創作モノ::幕間/AUC