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幕間:まんじゅう料理教室

side:ダーシェ

続き
飲み物の補充をしようと部屋を出れば、階下からワイワイと楽しそうな声が耳に届く。
時折混じるヨクトの声から判断するに、彼の指示下の元でこども達が何かを作っているのだとわかる。
…どうやらうちの子達だけではなく、お客さんも混じっているようだ。
声と気配からヨクトが溺愛する妹分だろうと考えながら階段を降る。
残念ながらアルト君はいないらしい――珍しい、この時期にはよく此処に来るのに。
たまたま都合が合わなかっただけか、それとも…

「翼人お兄さん! できたよ!」
「お、良い感じに濾せたな。じゃあそこに塩と生クリームと…砂糖は要るか…?
 まぁそれをちょっとずつ足そうか。味は足せても引けないから、慎重にな」
「ちょっと…このくらい?」
「あー…、

 …塩は人差し指で摘んだ分、ひとつまみで1、生クリームは大さじ
 ――これな?15ccって数字も覚えておくといいぞ――1掬いずつ様子を見るんだ。
 特に塩はひとつまみで結構効くから…、味がどう変わるか味見しながら、な?」

砂糖を足すのは最後にしよう、持ってきてくれた焼き芋自体が相当甘いから。
なにやら大きなボウルの中身を捏ねながら隣で作業するヒナちゃんとスィンちゃんに指示を出すヨクトが目に入る。
その反対隣ではディ君とイディちゃんがなにやら細かく刻んでいるようだ。
全員エプロンと三角巾を装備しており、成程料理教室を開いていたのかと賑やかさに納得した。

「何を作っているの?」
「『まんじゅう』と言っていたな」
「まんじゅう」

一人料理教室に参加せず、様子を眺めていたGieに声をかけて返ってきた答えを思わず繰り返す。

「点心の方のな。ヒナ嬢がいっぱい焼き芋持ってきてくれたから、
 ちょいと変り種の餡を用意して色々作ってもいいかなって」

此方の問答が聞こえていたのだろうヨクトが頬にちょっぴり白い粉をつけてにっと笑う。
…成程。ヒナちゃんとスィンちゃんが作っているのは芋餡なわけね。
で、ヨクトは大量の皮を、ディ君とイディちゃんは別味用の餡の材料を用意しているのか。
言われてみれば、ヨクトの後方、火を熾すあたりに大きな蒸篭が複数用意されている。結構な量を作るつもりなのだとわかる。
恐らく友人達へお裾分けする分も加味して作るのだろう。
皮の自作が出来るのであれば色々なものを包めるので、料理教室のお題としては中々楽しいものではなかろうか。
最も、具を何にするのかのセンスは問われるわけではあるが…今回は翼人チョイスなのでまず外すことは無いだろうし。
焼き芋から別の一品に変わる、というのも良い経験ではなかろうか。

「そう…、ちなみに芋餡以外は何を?」
「豚挽じゃなくて牛挽の肉まんと、焼き鳥…長ネギ込みと、あと豚キムチかな。
 豚キムチは超辛いのと普通の辛さのとをやってみようかなって」

超辛いの、と言った時に悪そうな笑顔を浮かべたので、恐らくソレを食べるのは今此処にいる面子じゃないと察する。
一体誰に差し入れるつもりやら…、きっと辛いのが苦手な子のところに持ち込まれるはずだ。
…心当たりが2~3人。あれ、でも彼は甘党というだけで辛いのはどうだったかしら?
あの子は辛いのよりも悪魔や魔王の方が嫌がっていたから、多分対象外…となると、今回犠牲になるのは...恐らくあの子か。
まぁ、兎も角、今日のお昼ご飯は「いろいろまん」に決まりのようだ。

「成程ね。なら、合いそうなお茶を見繕っておくわ。人手が必要なら呼んで頂戴?」
「サンキュ。まぁダーシェに声掛ける前にそいつ使うから問題ねぇよ」

そもそも他に四つも手があるから大丈夫だ、との笑い含みの声に、わかったと返して当初の予定を変更し、
喉を潤してから自身の作業部屋へと向かう。
さっぱりした後味の茶が良かろう、何を混ぜようかと思案しつつ。
プリンは包めるかという可愛らしい問いと、調べておくからそれは次回な、という兄妹分の会話に
思わずくすりと笑みを零してしまったのは此処だけの話だ。

  • 2019/11/17
  • 創作モノ::幕間/AUC