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幕間:『ぬい』

side:スィン

続き
けらけらけら。

擬音を当てて目に見える形にしたら、きっとそんな感じ。
その位の勢いで腹を抱えて笑っているのはウチの筆頭であるおじさま――翼人その人である。
正直おじさまがここまで笑っているのは珍しくって(よく笑みを浮かべる人ではあるけれど、
こんな風に笑うのなんて…記憶にないね?)、僕としてはちょっと困惑だ。
いやまぁおじさまだって笑うときは笑うと思うんだけど。

ちなみにディド君は呆れてて、イディちゃんはなんか嬉しそう。

「はー…、笑った。ここまで笑ったのひっさしぶりだわ…」

余韻が残っているのかまだくつくつと小さく笑うおじさまに、すすっと近寄る。
笑い転げてる最中に近寄るのはちょーっと躊躇ったけど、今なら大丈夫でしょ。

「何がそんなに面白かったの?」
「ん? あ、悪い、煩かったよな」
「ううん、それは良いんだけど。おじさまがそんなに笑うなんて珍しいね?」

回りくどく聞くとはぐらかされることの方が多いのはずっと一緒に居て学んだ事。
答えたくなかったらそう言ってくれる分、おじさま相手にはドストレートに質問する方が良い。
…といっても、これは多分、僕だから…身内だから許されてるんだろうなぁとは思う。
おじさまはあぁ、と軽く相槌を打つと、卓の上に乗せていた箱を引き寄せ、見てみろという。

何が入ってるんだか…と思いつつ覗き込んでみる。
と、中にいた「なにか」とばちりと視線が合った。

え?

「……人形?」
「そ。この間参加したイベントの景品ってことで作ってもらったんだ」

白に近い銀の短髪、白い肌、紅の目、少々悪人面の笑みを浮かべ
紅い外套に黒のインナーとズボン、それから茶のごつめの靴…

「うわぁ。めっちゃGieさん」
「だろ?!」

思わず呟いたそれにおじさまが食いつく。

「部隊の誰かの人形を、って話でさ。だったら一番意外そうな奴にしよ、と思って。
 ってもあいつあんま外出てねぇし、俺も詳細情報渡したわけじゃなかったんだ。

 なのにこのクオリティだろ?カワイイ二頭身人形なのにめっちゃGieでさぁ」
「あー…」

うん、おじさまの言いたい事何となくわかる。
二頭身だから結構デフォルメ入ってるのに、そのデフォルメ具合が滅茶苦茶ピンポイントで
Gieさんの特徴を捉えまくっているのである。おじさまはGieさんのオリジナルさんとも
長く深い付き合いだそうだから、余計に効果は抜群だったんだろうなぁ…。
この世界に来てからの付き合いの僕ですら、笑っちゃうくらいに似てるんだもの。
これ作った人『神』だね。間違いない。

「これどうするの? Gieさんの部屋行き?」
「いやそれは流石に。狭間のネコモドキとか同じくチビ達の部屋かなと思ってるが」
「ふーん… ねぇイディちゃん、コレ僕のとこにおいてもいい?」
「は?」

あ、意外ともち肌だなこの人形。ふにふにと人形の頬を弄りつつイディちゃんに問うと、
いいよーと元気なお返事を貰えた。よし。

「……お前なぁ…」
「いーじゃん。可愛くて格好良くて強そうなんて、部屋の番人には丁度良さげ」

何となく父様の念も妨害してくれそうな感じがするんだよね。
や、おじさまの領域にいて、かつ母様が妨害している以上、父様はどうしようもないとは思うけれど。
それはそれ、これはこれ。気分的な問題。
正直いつか帰った時がちょっぴり怖かったりする。
…勝てる位強くなってからしか帰らないけど、あの人もたいがい化け物だからなぁ…。

ちょっと意識を遠くにやっていたら、おじさまがさっきまでとは違う感じでふっと笑いを零す。
うんうん。おじさまの笑いってそっちだよね。普段。

「まぁスィンが良いなら構わんが。
 持っていくのは後にしろよ。本人とダーシェがまだ見てないからな」
「はーい」

Gieさん本人もこの人形について何か言いそうだけど、文句を言うなら僕にではなくおじさまに、だろうから。
僕はただ良い物をもらえたと素直に喜んでおこう。


…余談。


「ところで、何でGieは『さん』なんだ?
 俺は彼是で仕方ないとして、Gieはどっちかってと『おじさま』枠じゃねの?」
「んー…なんかちょっとGieさんは『おじさま』って呼ぶの違うんだよね。
 見た目の問題じゃないよ? わかってると思うけど」
「まぁそれは何となくは。………言葉にし難い感じか?」
「んー、そうだねー、ちょっと難しいや」

(彼女が敬愛、という感覚を理解出来たら、きっと、言葉にできる日が来るのだろう)

  • 2020/11/19
  • 創作モノ::幕間/AUC