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幕間:暗中離脱

続き

ひたすら集中し、“内”にある筈の僅かな繋がりを探す。
意識を完全に内側に向け、更にその中で目を閉じている状態とでも言えばいいか。
ラルフと見張りを交代したからできること。
彼なら私が直ぐ起きなくても対処できる。強いから。でも…カーロン戦後に合流した時、
こんなに強かったっけ?と思ったのはここだけの話。
元々強いけどね…ちょっとの期間別行動してただけなのにそう思ったというのは、
彼の内面にも何か変化があったのか、それとも黄龍再戦で自分の実力を思い知らされたからか―――

(っと、いけな。集中集中…)

とめどなく思考に流れそうだった意識を繋がり探しに再度向ける。
椰子の方は準備万端なようで、私が路を開くのを待っている状態だ。
探すの手伝ってよ!って言いたいけれど、普段の探査と違って私の(本体の)一部からなる繋がりを探すんだから、
私の方が探知しやすいし、何より見つけたまま転送で路を繋げないといけないとなるとね。
一回見つけてしまえば次からは楽なんだけど…って、だから集中しなきゃ…!;


(………あった、これだ…!)

実際の時間に直したらそんなに経ってないだろうけれど、
大分掛かってようやく目当ての繋がりを見つける。
思ったよりもずっとずっと細くて、そのせいで見つけるのに予想以上に梃子摺った。
多分、こちらの私たちが写し身だからその分薄いんだろう。
でも、見つけたからにはもう見失わない。
その繋がりを…糸を伝うようにして転送先を確定する。転送先は私の一部…だけれども、
影響を与えないようにそこには直接開かない。
あくまでその周辺。
本来“幽体”は人形の躯から大きく離れることは出来ないけれど、転送陣を人形内部に構築して
常時通路を開いていれば繋がっていられるし、私の一部が転送先にあるから大丈夫なはず。
通路を開きっぱなしにするのは本当は凄く疲れるけど、
今回は元々の繋がりを利用するから殆ど負担は無い。
まぁもし駄目でも魔力がちょっと減るのと、椰子の意識がどっかに行っちゃうくらい?
…行きはしないか、駄目だったーって戻ってくるだけだな、内部に構築するわけだし。

(何にしても、椰子のことをとやかく言えないような綱渡りな転送ね!)
『まぁ、俺等らしいじゃねぇさ。こっちに来るのも綱渡りばっかだったんだからさ』
(それが気に喰わないって言ってるの。

 ま、いいわ。じゃ、開くよ!)

自身の“内”に小さな転送陣を描き、発動させる。
内部の魔力を動かしているだけだから、外の仲間は気が付かない。
そもそも私自身が魔力の塊みたいなもんだしね。

『よっし。そいじゃ、行ってくるさね』

あーらよっと!
そんな掛け声を言いながら陣を潜った椰子の声は、いつもよりも遠くなって…


一瞬の真っ暗闇と軽い圧迫感の後、不意に訪れる宙に放り出されるような開放感。

(…っとっとっと)

躯があるわけじゃないのに咄嗟にバランスを取ろうとして苦笑う。
この姿なら大抵のものにぶつかる心配はないのに。
ともかく、目論みは成功か否かと、ふっと視線を巡らす。特に人の気配はない…が、
俺の直ぐ傍で、大きな赤い目の兎と視線が合った。
きょとん、としていたその目は一瞬の後更に大きく見開かれて―――

(しーっ!)

笑いながら人差し指を口元に持っていき、ウィンクして 静かに! とジェスチャーで伝える。
それから、兎をあやすように、そっと頭に手を置く。
まさか、とは思ったが。こんなに薄い“幽体”でもこの兎に触れられる、ということは…
この子が本人格の一部を宿す者…彩、か。随分覚えている姿とは変わってしまっていて吃驚だ。
そういえば、人型ではない姿にもなれるはずなんだけど、と、かつて友人が言っていた気がする。
この姿がその姿という事なんだろう。
驚かせてごめんな、という意味もこめて頭を撫でながら、改めてもう一度周囲に視線をやって状況を確認する。
ここは…アトリエ…かな。俺等の本体がとっ散らかしてる作業場と似たり寄ったりな部屋で、
俺等のところよりもよりカラフルというか何と言うか…親友の好みがモロに出てるのが丸わかりな部屋。

(いきなり作業場に入ったって知られたら、怒られそーさね…)

苦笑いながら、ふと、この部屋に近づく音を耳にする。
…そういえば、何も考えずに転送して来てしまったが、ここに住んでいるのが友人だけとは限らない。
なにしろあれから二年も経っているのだ、俺を知らない誰かと住んでいる可能性もある。
現に部屋の感じからして…最後に会ったあの時の住居に住んでいる様子ではない。

「…やっべ。彩、わりぃけどちと姿消すさね。ユエだったらまた出てくるさ」

そう言いながら、身体を完全に不可視の状態に変異させ、序に気配も消しておく。
魔力だけの存在でも気配を消すくらいは出来る。
程なくして、ドアを開けて入ってきたのは…相変わらずのなっがい金の髪をした懐かしい友人の姿。
目当ての人物の登場にほっとして、姿を現そうとした時、もう一つの気配がアトリエに近づいてくるのに気が付いた。

(ち、タイミングの悪い)

転送先の様子も込みで探知してから転送しやがれ、本人格。
なんて愚痴ると、遠くの方から五月蝿い!という思念が飛んでくる。
…繋がりはばっちり保ててんな(苦笑

友人に続いてアトリエに入ってきたのは、金髪のエルフ耳の女性。
この位置からでは後姿しか見えないが、やたら親友にそっくりな後姿をしている。
まぁ、金の髪のエルフ族で髪質も似ていれば、他の種族から見れば他人でもそっくりに見えることはあるが。
それにしてもよく似てる。

そんな事を思いながら様子を伺っていると、どうやら、彼女は友人の古い知り合いで、
俺の気配を察知して此処へ来たようだ。
…消す前でも結構薄い気配だったはずなのに、察知するとは…かなりの使い手かもしれない。
とりあえず、友人もなにやら窮地の様子。これはこのタイミングで出るしかないか、と、すーっと二人の背後から近づき。

「いやぁ、気のせいじゃねーさね…」

それ、多分俺の気配だと思うさ。
親友の心底驚く顔に物凄く期待しながら、姿を現してそう声をかける。


―――直後、振り返った二人の顔を見て、俺の方が心底驚かされるとも知らずに。

  • 2010/06/19
  • 創作モノ::幕間/DK KOC