記事一覧

幕間:ひとやすみ。

記:ディド

続き
道順を過たず通って初めて現れる隠された道を辿って、ようやっと見えたこじんまりとした建物。
その入り口を潜れば、こじんまりとした外見からは想像できない位広い空間が出迎えた。

0街0番地。

主人がそう命名したギルドの拠点。
ギルドメンバーが全員宿泊し、なおかつ作業用に幾つかの部屋を占拠しても尚余るほどの部屋数があり、
大きな調理場と広く明るいリビング、それに続くやはり広い中庭がある。
その他生活に必要なアレコレがしっかり揃っているここは、ギルド拠点というより
気が向いた時に勝手に使える合宿所…少なくとも僕にとってはそんなところだ。

何度来ていても外とのギャップで不思議な感じを覚えさせるリビングを通り過ぎ、中庭に出れば
日差しを受けて煌く銀髪と、それとは違う強い煌きの一筋が目に入った。

(よかった。此方にいらしてた)

剣の鍛錬中なのだろう、一振り一振り、丁寧に振るっている。
振るわれる度、剣は陽光を受けて白い軌跡を大気に描き、銀の髪が淡い焔のように揺れる。

声を掛けて集中を切らしてしまうのも忍びなく、気配を消してその場に立ち、終わるのを待つ。

主人の太刀筋とは違うんだな…と思いつつ眺めること暫し。
チン、と軽い金属音が静かな中庭に響いた。

「お疲れ様です」

納刀を確認して声を掛けると、弾かれたように銀髪の青年――アルト殿が此方を見た。

「…びっくりした。何時からそこに?」
「先ほどから。鍛錬のお邪魔するのは忍びなかったので」
「気にせず声を掛けてくれてよかったのに」
苦笑しながら近くの木に引っ掛けていたタオルを手に取り、汗を拭きつつ此方にやって来る。
こういう姿をよく拝見するからか、格好よくて気さくなお兄さん、というのが僕の持つアルト殿への印象だ。
けれど、彼は友人の皆さんからは色々と弄られることが多いらしい。
その『皆』には主人とダーシェ殿が含まれているとも聞いている…が、今は脇においておく。

「一人か? 翼人は」

近くに来てから、リビングにも他に人影がなく、僕が一人なのに気付かれたのだろう。
発された問いに年下の面倒見も良い方だな、と印象に書き足し

「主人は少々体調を崩しまして…あぁ、ご心配なく。ただの疲労ですから。
 兎も角、そんなわけで、これをアルト殿にお届けするよう言付かったのです」

そう答えて、持ってきた籠の包みを軽く紐解く。
途端、ふわり漂う甘く香ばしい香りと、すっとするミントの香り。
ほんのり甘いドライフルーツ入りのクッキーと、ミントティーをベースにした寒天ゼリー。
諸事情有って主人ではなく、どちらも僕が作ったものだ。
修行中ゆえにとても簡易なものだけれど…味は悪くないはず。
味見をしてくれたダーシェ殿からは合格を貰ってある。

現れたお菓子にぱっと喜色を浮かべるも、アルト殿は眉根を微かに寄せた。
主人から差し入れされる理由に心当たりがないのだろう。

「……とある写真を見たささやかな詫び、と、仰られていましたよ」

声を低めて囁くように付け足すと、あ、というような顔をされた。
その表情で大体何があったのか察せてしまうのがまた、何とも。

「兎も角、そのような理由でお持ちしました。
 ――とはいっても、このままお渡ししたのでは芸がありませんね。
 お茶を淹れますので、その席でお納めいただけますか?」

微笑みながら問うと、笑顔で肯定の頷きが返ってくる。
その笑顔にちょっと見とれつつ

「……黒猫殿も。隠れてないで、ご一緒しませんか」

どこに向けて言うでもなく声を掛けると
え、というアルト殿の声に被って『にゃぁ♪』と、上の方から返答が聞こえた。

  • 2015/01/28
  • 創作モノ::幕間/AUC