突然の来客に、翼人は微かに苦笑を浮かべた。
自分たちでよければいつでもお相手するよ、と、告げてはいたけれども
それは何がしかの結末を得てからになるだろうと思っていたので。
とはいえ、いつでも、と言ったのは事実だし
こう唐突に訪れるのも彼女らしいと言えば彼女らしい。
ダーシェ特製のハーブティを淹れ、彼女が手土産にと持参して来てくれた
彼女の娘特製のアップルパイを贅沢すぎる茶請けとして切り分ける。
ふわり、鼻腔をくすぐる良い香り。
ラベンダーをベースとしているのに、とても柔らかで控えめな香りが
アップルパイの香ばしく甘い香りを上手に引き立てていて
それだけで穏やかで優しい気分にさせてくれる気がする。
「いただきます」
「こちらこそ、いただきます」
片や、客と手土産に対し。
片や、場の主と茶に対し。
その一言を発した後、漣のような心地よい沈黙が二人を包んだ。
もし“彼等”がこの場に居合わせたなら、目を疑うこと間違い無しだろう。
客であるこの女性は目下、一部の若人の間において、彼等の大事な仲間を
取り戻す上での最大の難関、簡潔に言えばラスボスに相当する。
そもそも、本来ならこの世界ではなく、別の世界にいるはずなのだ。
そんなラスボス相当の人物を、そうとわかっていて受け入れ
のんびりと茶を楽しむ翼人に対しても非難の声が上がるのは必至。
――まぁ、それも全て、彼等に知られればの話、ではあるが。
彼等若人達は今、それぞれにできる最大限の事を為して
仲間を取り戻すために動いている真っ最中。
まさか最大の難関がこんなところで茶を楽しんでいるなど、誰が思うだろう?
……いや。
彼女自身、こういう時だからこそ遊びに来たのかもしれない。
恐らく、この沈黙の後に二人が口の端に上らせる話題も
現在進行形で発生している件については微塵も触れないだろう。
翼人も思うところはあるが、その件について口を出すことはない故に。
永い時間を過ごす二人にとって、これは今後何度か訪れるだろう機会の
その平和で静かな最初の1回、に過ぎないのかもしれない。
-fin
