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幕間:刻告げる時

「結論から言うと、」

続き

――時はメナスと刃を交える少し前に遡る――


「やっぱ魂の分断状態がこれ以上続くのは厳しい、ってことでいいさ?」

確かめるように、納得させるように、ヤシースはゆっくりと言葉を紡ぐ。
隣には半透明の姿ながら、スーシャも真剣な眼差しで彼と同じモノを見つめている。

『冥府から離れてなお今まで通りの活動をするなら、な』

二人の視線を一身に浴びているソレは、ヤシースの問いに対して
先程告げた言葉の一部を回答として返した。
―――黒い鏡面向こうの、もう一人の彼…いや、本当の彼ら、のうちの、彼。

『ここ最近はずっと冥府に居ただろ? それがどうやら魂には良い方向に動いてたらしい。
 世界は違えど冥府・冥界はやっぱ互いに存在が近いから魂の距離も近くなるのさ。
 …そっちの本人格が外へ遊びに出掛けなきゃ気がつかなかったさね』

ちょっとの出掛け程度じゃ問題が出るような事態にはならないが、と、鏡向こうの彼は笑う。

「や、笑い事じゃないから…それだったら私達がこの世界に存在を続けるには
 冥界を拠点にするしかないって事じゃない。冒険者への撤退命令が出てるし
 もうそれは出来ない相談よ?」
「―――となると、ぎりぎりまで居残ってからこの躯解体して融合って
 話になるよな。ぎりぎり、ってのがどれぐらい残ってるのかだけどさ」
「そう…なるよね。ね、どれだけ残ってるの? ほんっとギリギリまで居たいんだけど」
『おいおい。結論を急き過ぎさ! 話は最後まで聞けって』

色々あって余裕が無いのは判るが、と、鏡向こうの彼は苦笑する。

『言ったろ、“今まで通りの活動を続けるなら”ってさ。今まで通りってのは
 ずっとそっちに居っ放しって意味さね』
「…?」
「つまり…、居っ放しではないなら存在が保てるってわけさ?」
「え? 居っ放しじゃないって…、じゃあどこを拠点にするの?
 さっきも言ったけどここって訳には行かな…、まさか…
 ………そっちに戻れって事?」
『ま、端的に言うとそういうことさ』

鏡向こうの彼の言に、彼らは顔を見合わせた。
それもそうだろう、元々オリジナルの彼らがあそこから動けないが故の
代替策として写し身である自分達を造り、送り込んだのだから。
戻って来い、というのもなんだか妙な話である。

『此処に戻れって言ってるわけじゃないぞ? 魂の距離を近くするのに
 こっちの世界に拠点を置けって言ってるだけさ』
「それって…」
『皆まで言わずとも判るよな?』

再び、彼らは顔を見合わせた。
本体の彼が何を言っているかは勿論判る。
判るが、彼等は――彼等の本体はと言うのが正しいが――本当の『死』を迎えたわけではないにせよ、
自ら望んで友人達と別れを告げ、冥府へと堕りて行った者だ。
幾ら写し身とはいえ、殆ど同じ存在の彼等がそのまま戻るのは黄泉返りに等しい。
…その例が過去にないわけではないが、少なくとも、彼等にソレをする気は無い。
まぁ、魔力体だけ飛ばして友人にのみ会ったことはあるが…
戻ってあちらに拠点を置くというのはそれと全くレベルの異なる話だ。
そもそも、拠点をあちらにするのならば此方に存在していないに等しいし、第一、
躯ごとあちらに行ってしまってはこちらに戻って来るのに多大な労力を費やす事になる。
どれ程の魔力を吸収してきても、界をそう頻繁に行き来しては幾らあっても足りない。
魔力と意識だけ飛ばした際には、あちらとこちらに繋がりがあったからこそ極軽くの消耗で済んだのだ。

それらの事を目線でだけで会話し、三度、彼等は鏡向こうの彼を見る。

「…私たちが何を言いたいか、言わなくても判ってるよね?」
『まぁ、俺自身でもあるし。今二人が何を考えてたか位判るさ』
「ではそれらの問題に対する回答を。
 ―――納得できない場合は幾ら創造主の命令でも強制でも、持てる力全部で抗うから」
『…物騒な事言うんじゃないさ。ま、本人格らしいっちゃらしいが』

やれやれ、と笑いながら溜息をついた彼は、彼等の提示した問題に対する答えを口にした―――





『…以上が解決法さ。何か質問は?』
「ねぇな。俺は今ので納得したさ…それなら実現可能さね」
『ま、俺なら理解できると思ったさ。本人格は?』
「…大体は。でも、本当にそんなことできるの?」
『出来るも何も、そちらが最初にやったことだろが。俺達だって吃驚だったさ、
 まさかそんな事が出来るなんてさ。まぁ、写し身のそちらだからこそ出来る芸当だろ。
 つか、今提示した方法は俺達ではできない。
 写し身だから…というか、お前達だからこそ出来るものばかりさ。

 …これを実行するかしないかはそちらで決めればいい。
 俺達はそちらが決めた事を尊重するし、実行するのであれば尽力は惜しまないさ』

今まで俺らの代わりに旅をして、俺らをも楽しませてくれた礼さね、と
鏡向こうの彼は笑う。

「―――判ったさ。この後のゴタゴタが片付いて…冥府から出るまでには
 結論を出して、もう一度連絡するさね。それでいいな、本人格?」
「...うん。ま、もう大体…心は決まってるけれど。
 後で細かいところも色々確認して決めてから、で。

 ―――ちょっと、今は立て込んでるからね」

  • 2011/02/20
  • 創作モノ::幕間/DK