「この柄はどうでしょうか。これも似合うと思うんですよ」
「わ、それも素敵!うんうん、似合いそう♪」
「いいですね。それに合わせるなら帯は―――」
「シックに行くならこの帯だろうが、あえてこちらでも良いかもしれん」
「帯がそれなら…帯紐と伊達襟はこの辺で、帯留はこの辺かしら?どう?」
「えっと…そうですね…右から2つ目の…それがいいなって思います」
「うーん、私はこれがいいと思うんだけどなー、格好良いじゃん?」
「姉様…それは自分用の時に選んで下さいね?」
「…元気だよなぁ…」
色とりどりの布と小物を畳一杯に広げる女性陣を眺め、茶を啜りながらぽつっと呟く。
「女性が元気なのは良いことだよ」
独り言のつもりだったのに、隣からすかさず切り返された。
女性陣から視線を外して隣の青年に移す。彼の手にも湯呑があって香ばしい薫りと湯気がそこから立ち昇っている。
その隣にももう一人同じ様に湯呑を持って女性陣を――というよりはその中の一人の一挙手一投足を
至極嬉しそうに眺めてる青年と、その足元にもらったお菓子を頬張る赤毛と黄毛の二匹の猫。
まぁ、二匹は厳密に言うと猫とはちと違うんだが。
場所が場所だけに珍しい毛色の猫として見事に振舞っている。
「悪ぃ事だとは言ってないさ。 …けど、こういうことになると
いつも以上にパワフルだなーって思っちまうのさね」
そう青年に返して、俺は再び視線を女性陣に戻した。
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事の発端は冒険者への撤収期限より暫し前に遡る。
本人格とリサが和服云々で話したのが最初だったか…、リサの和服姿から話が発展して、
皆で和服を買いに行こうよ、とか、確かそんな話だった気がする。
そんな話をクレアさんにして誘ったら、大賛成してくれて…んで、リサも詳しいだろうけれど
唐草さんもお店に詳しそうだし、ってことで彼女も誘って。
ノアトゥーンから戻る際の船の中で場所と日取りを決めた…わけなんだが。
最初は女性5人+猫1匹――どうしても俺は付き合うことになるから+αで俺(ただし中に引っ込んで)
――って話だったのに、集合してみたら女性2名男性2名、猫1匹が追加になって、
総勢10名+2匹の何とも賑やかな団体になってしまった。
男のうち一人は自発的に、で、もう一人はリサの財布として強制的に…というところを、
だったら嫁さんのも、ということになったらしい。
で、嫁さんのお姉さんも話を聞きつけてやってきた、と。
――ん?…ということは…奴は3人分のを買うのか?
流石に大変そうだから俺等の予算を分けて…、とも思ったが。
ファルーの分は俺等が持つことになってるし、そこは頑張ってもらう事にしよう。
っと、他に男性がいるならって事で、俺も魔力体を実体化させて出てきている。
イズライールを再度取り込むことが出来たから、短期間の実体化なら問題なく出来るようになったんだよな。
まぁそんな団体でお邪魔する事になった此処の店主殿には本当に申し訳ない気持ちで一杯―――だったのも店に着くまで。
中心部から少し離れた立地にあるせいか、静かな店に訪れた団体に店主は大喜びで俺達を出迎え、
店を貸し切らせてくれた上、男性陣+猫達にはこうして茶と菓子まで用意してくれた。
―――常連の唐草さんとその友人、ってのも相当大きいんだろうけどな。
あと本気買いモードになってるのも。
「椰子ー、どう思う?」
此処に至るまでの事を振り返っていた俺に、本人格が意見を求める。
見ればどうやらファルーの一式が決まったようで、彼女は薄青の地に淡い小花を散らした和服を纏っていた。
予想以上の出で立ちに、一瞬息を呑んでしまった…のは仕方ないと思う。
…その格好でそのはにかんだ表情は反則さね。清楚で可憐で可愛すぎる…!
「おー、ファルーらしくてとってもいいと思うさね! 凄ぇ可愛いさ!
帯裏とか伊達襟でほんのちょっと赤味が入ってるのが指し色になっていいな」
「反対色をちょっと入れるのがコツなんだって。流石唐草さんとリサは違うよねー」
楽しそうに本人格は皆と笑い合うと、さぁ次は、と、次の女性陣の一式を決めるのに取り掛かり始めた。
…このまま一日和服選びに費やされそうな気配に、俺は隣の青年と顔を見合わせ、
仕方ないよな、と肩を竦めてまた茶を啜る。
―――今まで冒険者としての喧騒の中に居たんだ。
今日くらい、昔のように華やかな喧騒を眺めているのも悪くはない、さ。
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「ラルフさん、ちょっとこっちに来てくれませんか?」
「ん?」
「いーからいーから!」
女性陣の衣装選びがほぼ一段落ついた頃合いに掛けられた声。
それに「どうしたんだ?」と、全く油断して近寄ったラルフ。
…この後、彼の身に悲劇つーか喜劇つーかが起きたのは…、詳しく触れないで置く。
あの二人のイイ笑顔に気がついてりゃ、回避できたのにな…
