「随分すっきりしましたねぇ」
「あ、お疲れ様ですー!
あはは。まだ雑草を引っこ抜いただけですけどねー」
後ろから掛けられた声に、作業の手を止めて振り向く。
向いた先は見事に逆光…でも、声を掛けた人物が誰かはわかっている。
だから、泥だらけの軍手で額の汗をぬぐいつつ、私は彼女にそう応じた。
アストローナ大陸はディアス帝国、帝都ディアス。
つい先日終えた旅の、始まりの場所となった街 ―――その西区にある、とある教会の北の庭園。
私たちは今、そこで作業を行っている。
作業、といっても、その北の庭園に存在する工房に関わるものではない。
…まぁ、依頼主というか、雇い主というか、は、工房の主だけど。
「もうちょっと手入れが行き届いていたら、胸を張ってそう言えるんですけどねぇ…
…あんな草ボーボーの庭じゃあ……」
旅の最中、私の使う剣を依頼したがきっかけで、お話するようになったここの工房の主が、
ご実家について話してくれた時、工房のある北側の庭園についてそう零したのがそもそもで。
最初は庭師の相談とかご家族にしてみては?という話をしていたのだけど、冗談半分本気半分で
「そんなに広いなら片隅を家庭菜園風に弄ってもいいですかー」なんて、言ってみたら。
あっさりOKが出たばかりか、私に頼めるなら雇用告知しなくていいし、なんて
…私にとってはびっくりな流れになったのよね。
冗談半分だから「変なものとか植えるかもですがー」なんて言ってたのに、それすら
「剣の切れ味を試せそうだから」、とOKが出た辺りがまた。
流石は冒険者としてもハイレベルな方だけのことはある、かも。
ま、そんなこんなで、私も半分は本気だったわけで。
そういう話なら、ということで、パーティーを解散した後暫くしてから、こうして彼女のご実家というか
工房というかを訪ね…今こうして庭園の手入れをしている、というわけだ。
実際に家庭菜園風にするのは一角だけど、その一角だけきれいにしても仕方ないしね。
ていうか、そこだけやっても周囲に雑草があると色々面倒だし。うん。
しっかし、1000年前からこの地に住まれていて、しかも教会にいらっしゃる…とは聞いていたし…、
話からして相当な敷地を誇るところ、すなわちかなり立派な教会だろうとは思ってたけど。
いやはや。ここまでのとは思ってなかった。
彼女が工房に戻ってるかどうかを伺うのに、ちょっと躊躇ったのは此処だけの話。
直ぐに慣れたけど!
「雑草を抜いただけでも随分違いますよー。それにしても、一日でよくここまで…」
「ん。庭仕事というか、農作業は経験があるんで。
それに、もう一人に手伝ってもらってますし…」
そう。
流石に私一人では大変なので、椰子に実体化して出てきてもらってるのだ。
後で疲労感が倍になるけど、まあ、さっさと片付けた方がいいからね。
…と、『もう一人』という言葉に首を傾げた彼女を見て、そういえば、椰子を彼女に会わせていないことに気が付いた。
割と長い付き合いがあるのに、紹介してなかったんだっけ;
一息入れるのにも丁度良い頃合だし、此処に来るのは私だとは限らないから椰子のことを紹介して…、
それから細かいところももう一度再確認した方がいいよね。
水撒きとか温度調整とか、諸々魔力使ってやりたいし…
でも、ここ教会の敷地だから下手にそういうことやっちゃいけないかもしれないし…。
うん、そうしようそうしよう。
瞬時にそこまで思考を巡らせると、振り返って作業をしているはずの椰子に声を掛ける。
彼も丁度一区切り付いたのか、山積みの雑草を一輪車に載せてこちらに歩いてくる。
―――その姿が、余りにも妙に似合いすぎてて。
私は思わず、吹き出してしまった。
