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幕間:焔と晶の邂逅

それは聖域に近い、しかし特別区に指定されていない場所でのこと。
彼は「冒険者」と呼ばれる者たちであれば遭遇しえる光景に鉢合わせた。

――倒れ臥す人。

ああ、面倒くさいことになった。第一に思ったのはそれだ。
それを見つけて、直ぐに駆け寄らなかったのは恐らく彼だから、だろう。
しかしながら、まだアティルトまではそれなりに距離がある。
誰か他の者に任せようにも生憎周囲には誰も居ない。

ああ、面倒くさい。

溜息をつきながら、声をかける。反応は無い。
仕方なく抱き起こそうと手をかけ……そして唐突に走った感覚に戦慄した。
もし近場に誰か居れば、目の色が変わったと言っただろう。
驚愕の眼差しを、彼は彼女に――抱き起こして女性と知れた――に向けた。

続き
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「…お前、ヒト…どころかイキモノ、じゃないだろ。だから拾った」

すぅ、っと彼女の目が細められる。
透き通って深い、宝石のような緑の目に浮かぶ、濃い警戒の色。

「変わってるのね。普通、変だと思ったら拾わないでしょうに」
「興味が沸いたからな」

誤解されそうな事をさらりと口にして、彼は笑った。

彼女は人工的に…魔術的に創り出された存在だ。
感じる生命力が普通のソレとは全く違うのがその証左。
加えて、彼女からは創り手と創られた存在との間にあるべき魔力的繋がりが全く見当たらない。
それは創り手が存在しなくなったにも関わらず、創られた彼女は存在し続けている証。
しかも、「個」として相当の年月を存在しているのだろう気配がする。
ほんの少し言動を交わしただけだが、節々からそういう印象を受けるのだ。

完全に独立した、創られた存在(もの)。
…魂が少し異なる組成をしている以外は普通の生命体となんら変わらない。

“つくる”事を趣味としている者に、興味を持つなという方が難しい。
一体、誰が、どうやって、こんな存在(もの)を創ったのか、と。

解術して分析してみたいのは山々だ。
しかし、己の魔力を総動員しても彼女を術式に戻すことはできないだろう。
もしできたとしても、今のまま戻すことは製作者にも不可能だと断言できる。
「個」として独自に存在してきた彼女は、ソレまでの経験全てが彼女を構成している要素。
解体して組み直しても、経験として身に沁みたものまでは再現できない。
そういう経験をしたことがある、という、ただの知識を持った別人ができるだけ。

だから、せめて、観察してみたい、と思ったのだ。

「別に行く宛もないんだろう? ならば此処に居れば良い。部屋は余っている。
 お前の兄だか男だかを探すにも、元居た世界に戻る方法を探すにも、
 拠点は必要となると思うが?」
「…貴方ホント変わってるわ」

イディアよ。姓はない。
目の力を緩め、苦笑しながら名乗った相手に
今更ながら名乗っていなかったことに気が付いて彼もまた苦笑する。

「シアティス・ロア・カスバ…と此処では名乗っている。
 ギルドにはロア・カスバと登録したのだったか。適当に呼ぶといい」

カスバ…と、目を見開いて驚き呟かれ、疑問に片眉を上げる。
それになんでもない、と彼女は――イディアは首を振り。

「OK。そうね、ロア、と呼ばせてもらっても?」
「ああ」

よろしく。
屈託なく笑った彼女を太陽のように思った、と、後にロアは妹に語ることになる。

  • 2015/08/28
  • 創作モノ::幕間/AUR