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幕間:星は三日月と唄う

「これ、ヨクトが作ったんでしょ?」

コトリ。
小さくも確と自身を主張するようなその音をたてたのは少しくすんだ銀の輪
――というには形状は環ではなく、一部に切れ目が入ってCの形をしていたが――2つ。

「…、」

思いもかけない品を差し出され、翼人は小さく息を呑んだ。

続き
それは土台に銀を使用し、1つは紅玉髄と水晶で上の三日月と星を、
1つは青金石と菫青石で下の三日月と星を中央に配した一対になる輪である。
デザインと軽量化を兼ねて施した単調な透かし模様に括り付けられた
黒と赤の革紐以外を、翼人はよくよく知っていた。

何せ、これを持ち込んだ少年――ナセルの言う通り、これは彼が作ったものだからだ。
それも他者の為に初めて作った護符である。いわば処女作、忘れるわけがない。

「……よく俺の作だってわかったな」

これを作ったのはブリアティルトに来る以前の話、しかも当人には内緒で
彼の傍に居る存在にこっそりと託したものである。
何故、という内心の動揺と嘆息を気付かれないよう、努めて平静を装って問えば
そりゃあね!と元気よく自信たっぷりに少年は笑う。

「わかるよ。俺だって商人だし、ヨクトが作ったものは良く見てたんだから!」

だからヨクトに手入れしてもらおうと思って持ってきたんだ、と告げられて
そうか、と、当たり障りなく応えるのが精一杯。

カウンターの内側にある引き出しを開け、磨き布と小さく細かいブラシを
幾つか取り出しそっと輪の片方を手に持って、翼人はゆるりと目を細める。

もう持っていないだろうと思っていたこの護符を、ナセルが今も持っていると
知ったのはそう昔の話でもないが、最近の話でもない。
ブリアティルトで再会してからかなり経ってからの話で、知った経緯も
彼が彼の大事な人にお守りとして、約束として渡した、という噂による。
そして今の今まで、これを作ったことについて話しかけられたこともなかった。
だからきっと知らないのだろう、と思っていたのに。
自分が作ったと知られていたとは何ともまぁ恥ずかしい話だ。
使った素材も素材であるし、仕込んだ術に関しても。
術は発動していなかったから気が付かれないだろうが…、
素材については何も聞かれなければ、いや、聞かれても答える気は無い。

恥ずかしすぎる。

そんなあれこれの思考を邪念だとばかりに振り払って、革紐を丁寧に解き
柔らかく細かいブラシで隅々の埃を落とし布できゅきゅっと軽く拭くいてやれば
手品のように銀は輝きを取り戻す。
そうして1つ目の輪を磨き上げ、ふぅ、と彼は小さく息を吐いた。

その時である。銀から星が零れたのは。
本当に小さな、ともすれば光の反射と見間違えてしまいそうな瞬きだった。
驚いて声もない翼人に、綺麗になった!ありがとう!と喜びの声をかける
ナセルを見て彼はそろりと首を傾げた。

ナセルには星が見えなかった…? 見えていたらこんな反応はしまい。
確かに星に見えたのだが、光の反射をそう見間違えたのだろうか?

ううん、と、今度は内心でだけ唸って、直ぐに考えることをやめた。
自分には星に見えたのだ。
ナセルの力を間近に受けて、星を瞬かせる程彼に良く馴染んだ護符になっているのなら
それが一番だと信じて、翼人は磨かれるのを待っているもう一方の輪に手を伸ばした。

+++++
まさか4年前のSSの続きがこんなところで出来るとは…;
ぜひともこの間を繋ぐあちら側のSSが見たいところですのぅ

  • 2016/07/22
  • 創作モノ::幕間/AUC