(20期中盤戦直後の幕間)
「これで…終わりだぁぁぁぁ!!!」
右手奥の森――カザイが身を隠している辺り――から、良く知る青年の声が上がるのを
そして青年の渾身の一撃――あれは秘技だ、と、彼には直ぐわかった――が
龍弟を倒すに至るのを、翼人は少し離れた所から口元に笑みを浮かべて眺めていた。
ここは皇国、巡りの間、2回訪れる大舞台となる地の一つ。
翼人はそこから少し離れたところで、風と水を操る得物の能力を最大限に生かし
他者から姿を見られぬように周囲の光を捻じ曲げつつ
その背の翼にて文字通りの『高みの見物』を決め込んでいる。
...尤も、その正確な意味から言えば、彼はこの大戦に無関係ではない。
何しろこの巡り、一般に中盤戦と言われるこれらの大戦において
皇国へ一番乗りを果たしたのは、他ならぬ翼人の率いた央国部隊なのだから。
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相手の最後の一人、皇国の知将を倒して、青年は勝利を宣言すると共に
同部隊の皆に気付かれぬよう小さく小さく息を吐いた。
知らないうちに随分と肩の荷を負っていたようだと、全てを終えてから悟る。
…選抜メンバーを率いる事を求められたのは、今回が初めてのことである。
メンバーそのものに選ばれる事は珍しくなくなっていたとはいえ
『英雄』の称号を授かる事もままあるようになっていたとはいえ
この大舞台を指揮せよと言われた時に耳を疑ったのはそう昔の話ではない。
たった数日前のことだ。
青天の霹靂とも思える通達の後、ばたばたと準備を進める中で
ふらっと姿を見せたのは、陣営を違えども懇意にしている黄緑髪の青年。
「猫丸さんが英雄になったって聞いたから、兎も角祝辞をと思ってね」
急いで来たから手土産も何も無くてすまんね、と、いつものように笑う彼を見て
初めての出来事に緊張していた心が少し解れる。
が、
「お互い皇国攻め頑張ろうや。終わったら皇国で一杯やろうぜ?」
「…はい?」
とんでもない爆弾発言をされた気がして瞬時に凍りつき聞き返すも、青年は笑ったまま。
「遠征土産に寿司ってリクエストされててさ。まぁそれ買う序つーか
慰労会兼ねて序に土産を買うっていうか? 良い店知ってるんだ」
じゃ、次は現地でな。
さらにさらりと爆弾発言を落として、じゃあなと去ったその青年が
央国の対皇国部隊を率いる英雄――しかも自分と同じく
初めて大戦を指揮するのだと知ったのは、その後直ぐの事である。
前の巡りで央国英雄称号を初めて取得した時も、彼と一緒だった。
しかもその彼も長く央国にいて英雄称号をもらったのは初だったいう。
今度は揃って中盤戦初英雄で、しかも揃って皇国行きとは
つくづくかの青年とは不思議な縁があるものだと改めて思ったものだ。
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「でも、まさか本当に『現地』で待ってるとは思いませんでしたよ……」
「そうか?」
滔々と流れる水音と吹き抜ける爽やかな風。
目の前には赤や白、橙、半透明や銀、といった鮮やかな色彩が品良く並ぶ。
先程までの血腥い喧騒など嘘のような、静かなここは、先ほどまでと同じく皇国である。
皇国と敵対するはずの、しかもつい今しがたの戦において知名度的にどうなんだよ、
と思える二人がいるのに、店の者は誰も何も言ってこない。
それもそのはず、翼人がその力を使って他者からの見た目を変えているからだ。
とまぁそんな事はさておき。
大一番を無事終えて、引き上げる帝国英雄の青年――猫丸に、上空にいた翼人は
風を使って彼にだけ聞こえる声を送り、足を止めて周囲を見回す彼に断りもなく
ひょいとこの店の前まで揃って転移してしまったのだ。
はっきり言って横暴である。
とはいえ、翼人が気紛れなのは今に始まった事ではなく、またその気性を
これまでの付き合いから良く知っているだけに、彼も半分位諦めの境地だ。
こうなったら楽しんでしまった者勝ちである。
「あんまり長居できないのが残念だけど。ま、お互い、お疲れ様でしたってことで」
「「乾杯」」
かちり。
所謂切子細工の繊細な器が啼いて、その余韻が鼓膜を繊細に揺らすのとほぼ同時
勝利を手にして飲んだそれは、芳醇な旨みを味覚と染み渡らせた。
