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幕間:溜息と思考の間

side:ディド

続き
「結局、あいつ等は何をしたかったんだろうな?」

訳解らん、と主人は溜息をついて通達の紙をクシャリと丸める。
振り返らずに後方に放たれたそれは綺麗な放物線を描いて屑篭に収まった。

「…世界を変えたかった、のだと思いますが」

主人の求める答えはこれではない、とわかっている。
彼がこうして問う時は大体が自分の思考を纏めたいが故の行動だと知っている。
僕の答えを足がかりに、ゆるゆると自分の中に渦巻く感情と思考を言葉にして
そうして漸く自分が何を考えているのかを知る。――難儀な人なのだ。この人は。
「気紛れな風」と自称しているだけあって思考そのものも気紛れなのだ。

「世界を変える、ねぇ……
 …まぁ、変える、に値するのかね。巡りを止めてその先へ、というのは」
「だと僕は思いますが。尤も、もう19度も繰り返している世界を
 それを知ったたった3年…いえ。彼等が行動を起こしたのは中ほどのこと
 たった1年半でどうにかしよう、というのは無謀だと思います」

我ながら中々辛辣であるとは思う。
しかして的を外しては居ない、とも思う。
思ったとおり、だろうな、と主人は僕に相槌を打った。

「俺もそこはそう思うね。あまりに浅慮が過ぎた。もう繰り返したくなかったのかもしれんが
 そう易々とこの世界の上位がそれを覆してくれるとは思えんね。
 結局の所彼等がやったのはただの徒労……あっちにとっても、こっちにとっても、な」

迷惑なことだ、と主人は大きく溜息をつく。

「だから今回の選抜戦は彼等に当たりに行くのでしょう?」

先ほど主人が丸めて捨てた紙。それは選抜戦に出ろ、という召集だと知っている。
常であれば他国に攻めにいく…否、主人に言わせれば遊びにいくのだが、
今回は4期前と同様、第六勢力とでも言うべき相手のところに攻めにいくのだという。
ちなみに4期前は別世界からの来訪者がこの世界を壊しに遊びに来ていた。
あの時はここまで面倒臭そうにしていなかった、と記憶している。
むしろ嬉々として「陣営なんて関係ねぇ!」と五色の石を使った小さな飾を作って
全国のフリーマーケットにばら撒き、予想していなかった勢いで貰っていかれて
目を点にしていたのは今でも笑い話だ。

そんな昔話はさておき。

今回のこの一戦、主人はあまり乗り気ではないのだろう。
ご友人の猫丸殿と一緒だというのには喜色を浮かべていたが――…

「はー…。なんつーか。ま、討伐っていうよりはあれだ、叱りに行くって思えばいいか」
「叱りにって。相手は主人よりずっと年上の方々では」

思わず突っ込むと、意外に真面目な顔で主人は眉間に皺を寄せる。

「ガキだろ。つか約2名は確実に俺より年下だが?
 ま、叱りに行くと思えばまだ気楽だ。それじゃちょっくら打ち合わせに行って来るかね」

店番宜しくな、と僕の頭を撫でて出て行く姿は、いつもの主人だった。

  • 2016/05/14
  • 創作モノ::幕間/AUC