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幕間:それでも彼女は賭けに出る。

続き
それは「転生」と呼ばれる。
この世界の傭兵の間では良く知られた強化術。
より黄金に練成(な)る為の手段だとか何とか言われるが、其れはさておき。

彼のそれは、今回で丁度10度目。
9度目に再発した“ろん族化”現象の解消は勿論想定内。

だが。

「――ヨクト…、」

人型に戻ったその姿は、どうみても。

「どう、したの。何故――――」

戸惑いながら問うダーシェに、“彼女”は薄く苦笑する。

「ちょっと…ね。“あちら”に、“私”の我侭を聞いてもらったの。
 ………莫迦を止めるために、莫迦をするなんて本末転倒だけれど」

そこで切り、それ以上の言葉を続けない彼女に
ダーシェは小さく溜息をついただけでそれ以上の追求はしなかった。
追求しても答えないということを、此処までの長い付き合いで理解している。
だから続けて口にしたのは別のこと。

「でも…大丈夫なの? Gie無しで遠征もするってことでしょう?」
「…多分。今回は調整じゃないから、『あちら』は内からの制御に集中してくれる。
 少しの間なら……

 …わかってるわ。自分達の為にも、できるだけ早く戻れるように努力はする」

そのために、ダーシェ、貴女の力も借りるかもしれない。

そう呟いた彼女の表情は以前と同じく殆ど感情を浮かべていなかったが
その目だけは、強い意志を湛えていた。

+++

右に銀。左に金。

どちらにも輝石を中心として複雑な魔方陣が刻まれているそれを嵌めるのは
随分久しぶりの感触だった。
けれど常にそこに在ったかのように、一切の違和感などない。

いつものように纏う風と水の装飾布
月長石・紅玉髄で月を象る銀の腕輪
日長石・緑玉髄で陽を象る金の腕輪
今だけ腰に帯びた、漂風扁羽

―――完全武装、といったところか。
この4点を同時に身に着けるのはこれが初。

前の世界では未だ漂風扁羽は存在せず
此方に来てからは腕輪はそれぞれの遣い魔に持たせていたから。

しかも“この姿”で、となると――…この先に、もう一度有るとも思えない。
幾ら「あちら」が内で制御に全力を出してくれると言っても
この4つを同時に“私”が扱うにはかなりのリスクが付きまとう。

……それでも、本気の彼女に相対するのであれば
こちらも本気であらねばならないだろう。
力の強弱の問題ではない。
心構えの問題。

どれも使わずに済むことを祈りたい。
私自身はもとより、何より、彼女のために。

「……良いのか」
「ええ。 ……始めましょう。ごめんね、無理言って」

そう言えば、返ってくるのは苦笑交じりのいつもの皮肉。

「ふん。お前が無茶を言うのは昔からであろう。
 手伝って欲しいといえるようになっただけ、奴よりは進歩したようだがな」
「………」

反論できず、ただ黙って手を伸ばす。
その手をがっちりと掴む、無骨で大きな手。

彼女が今いるのはこの世界――ブリアティルトではない、それはわかっている。
大気に、光に、果ては装飾布…テティスの力を借りて水に聞いても
この世界に彼女の『気』は全く見つけられなかったから。
そして彼女の「箱庭」にも居ない。

であれば、可能性として考えられること。
新しい『世界』の創造。
――多いとはいえない、長いともいえない、けれども密度の濃い
彼女との交流の中で“私たち”が知った彼女から予測する、行動。

世界を超えること、それ自体は問題ない。
私たちが居住に用いているのは、『空間の狭間』に創った場所。
元々世界を超える力を持っているなら、此処から幾らでも異世界へいける。
ただ、問題なのは「今、彼女が居るトコロを見つける」こと。
跳ぶ先の座標を特定すること。
それこそ有限で無限な数多の世界から、たった一つを見つけなくてはならない。

――専用に誂た、家具も何も無い部屋の、足元に敷き詰めた陣を見やる。

探すだけなら魔法陣は要らない、けれど、出来る限り“力”を温存して
かつ、魔力の暴走もなく探すために敷いたもの。
この陣と、Gieの抑止力を借りれば……いける、はず。

目を閉じて、魔力を陣へと向ける。
閉じていてもわかる、陣の発光。
巡らされた幾何学模様に正しく魔力が奔り、望むコトを為す証。

其れを感じると同時、情報が音を立てて脳裏になだれ込む。




世界を超える、ということは、次元を超えるということ。
次元を超えるということは、時間と空間を超えるということ。
時間を超えるということは、自らの知る『今』とは違う世界を見ること。

――数多有る可能性、枝分かれした別の可能性を見ることもある。
見たくも無い可能性を見ること、も。

大事なのは『自分の今』だと言い聞かせ、吐き気がする程の
情報の嵐の中、自我を保ちながら片っ端から漁り―――

「……見つけた…!」

正しくは、聞こえた。
ごくごく微かな歌声、実際に耳で聞いたわけではないけれど、間違いない、間違えない。

これは、彼女の声だ。

ぱっと、Gieが手を離したのを、意識の片隅で理解する。
見つけた歌声を抱くように己の魔力に絡めて、私は転移を行使した。

  • 2015/08/18
  • 創作モノ::幕間/AUC