記事一覧

幕間:ifの小噺

続き

「最愛の風、な」
「……なんだよ急に」
「何。お前には随分『最愛の』ものが多いと思っただけだ」

言われて眉間に皺を寄せた青年とは対象に、涼しい表情のまま彼は琥珀色をくゆらせる。
カラン。
一点の曇りも無い氷とグラスが奏でる音は今宵も絶好調。
夜の気配にこれほど静かに綺麗に沁みる音はそうあるまい。

尤も、その音の裏に篭められた密やかな熱に気がつかない程青年は鈍く無い。
だからこそ眉間に皺が寄ったわけなのだけれど。

「…あのなぁ。前にも言ったが、俺とオリジナルを混同するなよ」
「しておらん」
「そう見えないから言ってんだよ」

はぁ、と吐き出された呼気は夜に沈んでいく。
使い込まれた卓の上にことりと小さく音を立てて青年はグラスを置き、真っ直ぐに彼を見た。
普段は僅かに焦点をずらして圧を与えない青年の視線は、今はしっかりと彼の紅眼を捉えて離さない。
視線が圧を持つことは勿論彼も知っているから、珍しい、と思う位で飄々とその圧を流していく。
流しはするが視線をずらしたりはしない。

「オリジナルの最愛が俺の最愛とは限らない。あいつからは好きにしろと許されている。
 第一、最愛が一つ限りだと誰が決めた? それに『愛』が全て同じものとも限らないだろ」

一気に言い切って、そうして青年は置いてあったグラスから一息に琥珀色を流し込む。
ふは、と再び吐き出した吐息が熱いのは果たしてアルコールに焼かれたせいか、それとも。

「俺が最も愛する『風』は彼女だ。妹としてこの上なく愛しく尊く想っているさ。
 だからってチビ達やあんた等に向ける愛情が劣ると思われるのは心外だね。

 つーか、お前、わかってて俺に言わせてるだろ。
 “俺等”が『好いている』存在は数多あるが、『愛する』存在は極々稀だってのを」

視線の圧を強めた青年に、彼は暫し黙した後、ニマリと笑った。

  • 2017/02/12
  • 創作モノ::幕間/AUC