「いい天気なのに…惜しいなぁ」
「ホントに…ピクニックならこのままで良いんだけど」
隣に実体を伴って浮かぶ椰子に相槌を打ち、一言付け加える。
「でもしょうがないじゃない?」
椰子からの返答は苦笑一つ。
わかってるさ、の意。
小憎らしい位よく晴れた空。
でも、だからこそやりがいがあるというもの。
Tethysに魔力を注ぎ込み、支配域を広げていく。
いつもは範囲を限定し濃く支配するのだが、今回は違う。
薄く、広く。区切られた敷地の外にも影響する位に…
程なくして、太陽は徐々に翳り始めた―――
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久しぶりに美味しい食事が食べたい、ということで、今回は仕事帰りに
報告がてら館に寄った…これがそもそもの始まりだったと思う。
や、今回の仕事がそれを最初から目的にして振られたものじゃなければね。
仕事自体は凄く簡単で、単純に人手が足りなかったからかなって位…
まぁそれは兎も角。
あれはー…食事中話し掛けてきたのは、誰だったかな?
違う世界に拠点を置いて居るせいか、中々他の仲間と顔を合わせる機会が無くて
未だにラルフと初音さん、社長とソニアさんを除いて顔と名前が一致しない。
でも此方は翼が珍しいせいか、私も椰子も皆に一発で覚えられているのよねぇ…
あぁまた脱線した。
2,3日館に滞在できるか、出来るなら演習に付き合って欲しい。
確かそんな内容を問われたと思う。
以前からどんな演習を行うのか結構興味があったし、そういえば対空には
慣れてないみたいな事もラルフから聞いていたし、時間はあったし。
良いよ、って応えたのが運の尽き。
まっさかこっちの…襲撃役側は私だけとか、誰が予想するよ?
私だけ、といっても、私は椰子と二人で一人だけど。あと使い魔達もいるから
実質4人に近いけどさぁ…
「こんな良い天気だと、空から行ったら目立つさね」
そうなのだ。
雲一つも無いということは、太陽光位しか姿を隠すものが無い。
しかも風は凪。演習場には特殊結界が張られているせいだろう。
天気が悪かろうとこの中は影響を受けないのだ。まぁ演習だもの仕方ない
―――とは、思えなくて。
「ねぇ…、私達に襲撃役やれってさ、出来ること色々やっていいのかしら?」
「え?
まさか本気で攻撃するわけじゃねぇよな?」
流石にそれは駄目だろ、と、顔をしかめる椰子に、私は首を横に振る。
「そうじゃない。でも、嫌がらせというか…まぁ、そんなとこ?」
「……何をする気さ?」
「風は気圧変化で生じるって、その辺は常識よねー?」
それだけで私の言いたい事を察したらしい。
椰子の口元にも面白そうな笑みが浮かぶ。
「成る程。上手く良くかどうかはわからねぇけど理論的には可能さ。
やってみる価値はあると思うさね」
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今や太陽は完全に隠れ、分厚い雲が空を覆い、風は吹き荒れ、細かいものを巻き上げる。
視界は相当悪くなっているはず。これで雨も降らせたらゴーグル持ちでもきついだろう。
最も、サーモセンサー付いてるの位持ってそうだし、参加者の中には
気配を読むのに長けてるのも居るだろうから、本当に困惑させる程度の
役にしかたってないと思うけど。
ま、私も天候を操ろうなんていうのは実際初めてだしね。
ただTethysの能力的に可能なはずだと踏んで気圧を操り、
大気中の水分を操ってみたんだけど…意外と上手く行くものだ。
レベルを上げていけば雹を降らせたり雷落としたりできるかも?
後で疲労酷そうだけど! いいもん、美味しいもの食べて回復するから!
「いい感じになってきたな。そんじゃ、行くとするか」
「雨は降らせる?」
為せば為るんだなと空を見上げて感心する椰子に一つ問う。
彼はちょっと考えた後、首を横に振った。
「とりあえず要らないと思うさね。第一、イディアとDIDが
可哀想さ…俺等はTethysで濡れないけど、あいつ等は濡れる」
「…そうね。雨は後のお楽しみにしよっか。
ま、それじゃあ派手に暴れましょ。社長に怒られない程度にねv」
久しぶりにその能力を開放したTethysは、私の感情と呼応するように
荒れ狂う天候の中、それを無視して優雅にたなびく。
私自身、久々にそれなりに暴れられると思うと、嬉しくて仕方なかった。
