「おじさま、いつも有難う!」
全く裏の無いにこやかな笑顔とともにはい、感謝の気持ち!と差し出された小さな包み。
差し出された側の青年――翼人は喜ぶより先にんんっ?と眉をしかめた。
少女の意図が全くわからなかったからだ。
いや、日ごろの感謝を込めて物を贈るという行動そのものはわかる。
ただ、何で今?という理由がわからない。
あまりにも訝しげな顔だったのだろう、包みを差し出した少女――スィンはあれ?と首を傾げた。
どうやら彼女は彼女で翼人が訝しい顔をするのかがわからなかったらしい。
「今日は異界で父親に感謝する日って聞いたんだけど…?」
「……あー……」
そういえばそんな日があったなぁと納得しかけ、いやいや、俺はお前の父親じゃないぞ?と
苦笑と共にやんわり遺憾の意を示せば、そんな事はわかってるよ、と、彼女は唇を尖らせる。
「僕の今の保護者はおじさまだもの。おじさまが居なかったら今の僕はないなぁって
最近漸く気が付いたから感謝しないとって。…それとも母の日の方が良かった?」
「いや父の日でいい。……そういうことならありがたく頂戴しよう」
少しおどけて仰々しく両手で受け取れば、よろしい!とばかりにふんすと胸を張る。
ホントに感謝してんのか?という思いがチラリと脳裏を横切ったのはご愛嬌。
包みは大きさ相当に軽い。ほんのりバターの香りがするので、恐らくクッキーだろう。
最近漸くクッキーならば怪しい材料を選ばずに作れるようになったとは、彼女のお目付け役を
兼ねている遣い魔の少年からの報告である。
料理系にまだまだ不慣れな彼女が手ずから作ったというところに、きちんと想いを込めている事が
窺い知れる。スィンはどちらかというと、作るより美味しいものを見つけてくるのが上手だから。
「……ところでスィン、お前、自分の親父さんには?」
ふっと思いついて問えば、スィンはあからさまに不機嫌です!と
しかめっ面をしてみせた。
「父様には感謝してないもん」
「おい、」
「だって。
兄様と揃って僕には未だ早い!って決め付けて何もさせてくれなかったしっ。
そりゃあ父様がいなかったら僕自体存在してなかったのはわかってるよ。
でも其れとこれは別。
………いいの、父様には僕が強くなったことを将来思い知らせてあげるんだから」
生粋の武人たる彼女の父親にしてみれば、娘が力をつけて挑んでくるなんて愉しみでしかないだろう。
彼女自身が其れに気が付いているのかどうかはわからないが。
ほんの少しだけ、翼人は彼女の事が羨ましいと思う。
『自分達』には――オリジナルを含めて絶対にできない事だから。
だから、ぶすーっと頬を膨らませる彼女を宥めるように頭を撫でながら、そうか、頑張れよと、心から笑って応援してやるのだ。
いつかの父の日に彼女の企みが叶うように、と。
