「……具合はどう?」
「ん、小康状態。 …邂戦終わった辺りくらいからちょいと調子悪そうだったが
此処まで調子を崩すとは思わなかったな……」
そうっと髪を梳いてやりながら、翼人はダーシェの問いに答えた。
その青みを帯びた銀の髪の持ち主は人二人が小さな声とはいえ、
直ぐ傍で語らっているのに起きる気配はない。
普段の彼女なら普通に気が付くだろうに。
もしくは気が付いていても反応する気力がないといったところだろうか。
風月晶華の面々で最も幼い外見の彼女とはベクトルが異なるものの
それでも部隊の元気印を担っているといっていい存在がこうも大人しい状況に、
ダーシェの眉尻が少し下がる。
「…闇とは相性がとても良いと思ったのに、こんなことになるなんてね…」
ぽつりと零せば、それを耳聡く拾った翼人が苦笑する。
「相性が良いのは事実だと思うぞ? 何せ両親そろって真正の闇属性だし。
スィンの本質が闇じゃないってのは既知の事実だが…本人がそこんとこ自覚なし、
“術で貰った知識と器”で自分は完全闇属性だと思い込んでたのが敗因だろうなぁ…」
ちゃんとスィンの属性は『火』だと傭兵申請の書類には書いてやってたんだが、と
深い溜息をついた翼人に、ダーシェもまた柔らかく苦笑を浮かべた。
「ご両親が闇属性では他の属性だったなんて思いもしないでしょうね。
“成長の呪”の影響で闇の扱いが突出していたのなら、他の属性について
見ることはあっても触る事も使うことも思いつかなかったでしょうし」
「まぁな」
あっさりと肯定し、翼人は肩を竦める。
梳いていた手をそっと離して、ぽん、と熱を測るように少女の額に手を当てる。
「ま、丁度良い機会だ。もう少ししたら…巡りが変わればもう少し回復するだろ、
どうせ控えで大人しくなんかしやしないんだ、完全火属性の奴を傍につけて
遠征に行かせて、本来の属性の使い方を叩き込んでやるさ」
「え? それって…Gieを出すってこと?」
風月晶華で他の炎属性といえば、白髪赤眼の巨躯の男――Gieしかいない。
最も幼い容姿の猫耳娘・イディアは扱う力で誤解を招きやすいが、
彼女は『陽』であり『火』ではない。
Gieは翼人が常の状態ではない時にだけ、翼人の抑止力のために傭兵として
部隊に参加するが、そうでなければ風月晶華の用心棒に徹している。
幾ら部隊の一員に必要だからと言って、出てくれるものなのか?
スィンの事は身内として数えてくれているようだが、如何せん、あの男は
翼人とその使い魔以外とその他の者について明確に区別している節がある。
驚いて問うたダーシェに逆に驚いた翼人は、振り返って彼女を見上げた。
「おいおい…Gieが属性制御を教えられるわけないだろ。
あいつ属性値ぶっ飛びすぎてて無属性みたいになってるんだぞ?
ついでに魔力に関してはからっきしだ」
呆れたように返せば、そういえばそうだったわ、と、ダーシェは溜息をついて
「え…でも、じゃあ誰に…」
と困惑をありありと顔に浮かべる。
友人達に頼む、というのも一つの手かもしれないが…そうそう迷惑はかけられない。
となると身内の誰かに頼むしかないのだが、、、、
「居るだろ? 身内というには少々遠いが、色々ウチの面々が
融通を利かせられる奴が一人、さ」
ダーシェは良く知ってるぞ?と言う翼人の顔を暫し見つめ、
暫し思い当たる人物を探してみた彼女は、ややあって、ああ、と声を挙げた。
何を思ってのことなのか、今のところ風月晶華とは別陣営を選択しているものの
有る意味こちらの別働隊に近い存在となっている部隊の、紅い髪の彼ならば。
「…成程。確かに彼なら適任ね。有る意味炎そのものだもの…
でもスィンちゃん一人で向かわせるのはちょっと心配だわ。私も一緒に行っても?
ディ君でもスィンちゃんの補佐はできるでしょうけど、ロア相手なら私がいいでしょう?」
「ああ、そうしてくれると助かる。スィンの体調を考えると連邦に向かうんじゃなく
次の巡りあいつは央国に来るように手配するさ」
俺らは予定通り北にいく、どっかで遭遇したらその時はよろしくな?
にんまりと笑みを浮かべた翼人に、そちらこそよろしく、吹っ飛ばされても
文句は言わないでね?とダーシェもまた笑って返した。
