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幕間:巡りの狭間の騒動 III

細かく震えていたのが漸う治まり、もぞりと動いた気配を感じ取って
落ち着いたか?と青年は己の翼に包まれた少女に視線を落とす。

続き
「……ん。大丈夫…」

若干掠れてはいたものの、答えた声はしっかりしていた。
幼い頃恐らく彼女が母親にそうされていただろうからと、腕よりも翼で
抱く方が落ち着くとの判断は有翼人種ならではかもしれない。
腕で抱かれるよりも弱いそれの温さと柔らかさの猛威は推して知るべし。

「話、続けても大丈夫か?」
「うん……でも、その前に一つ確認させて」
「うん?」

落ち着いたとはいえ、視線を落としたままの少女に、何となく
聞かれることの予想をつけつつ、青年は問いを待つ。

「僕って…実は死んでるの?」
「否。冥界に属しているからといって、即ち亡者とは限らぬ」

あぁやっぱりそれかと微苦笑した青年よりも早く、白髪紅目の男が否定する。
言葉を先取りされた青年はちらりと男を目線を投げた。
その視線の意図を明確に読み取って、男は一つ頷いてから更に言葉を繋げる。

「お前もお前の兄も亡者ではない。故に、そも、お前の両親も亡者ではなかろう。
 俺達の世界で言うならば、生あるまま冥府に降る事を選んだ者であろうよ

 ――翼人と同じようにな」
「オイコラ何さらっと暴露してるんだ。というか訂正しろ、
 それは俺じゃなくて俺のオリジナルの話だ!」
「似たようなものであろう?」
「いや全然違うからな? 俺とオリジナルは違うからな?」
「イブラシルとかいう世界の冥府に降りたのは貴様だろうが」
「くっそそれについては否定できない…!」
「…一応、イブラシル世界に関しては、冒険者であれば結構な人が訪れた所だ、
 というフォローは入れて置きますね? (僕も付いて行ってますしね、そこ…)」

うがぁ!という擬音が付きそうな勢いで青年はがしがしと頭を掻き、
少年は小首をかしげながら、ちょっとどころではなく結構ずれたフォローを入れる。
先程までの重い空気と、さらりと投下された爆弾の気配はどこへいったやら。
目の前で繰り広げられる漫才じみたやり取りに、少女はくすくすと笑いを零した。

はぁ、と溜息を付いたのは今日何度目だろうか。
あぁ幸せが逃げるな…まぁ言ってもきっと籤運ぐらいなものか、結果的に少女が
笑みを取り戻したのなら良しとしよう、そう青年は気を取り直す。

「ま、そういうことだ。うちで冥界に関わりがあるのはスィンだけじゃない。
 …俺等の話は機会があればそのうちな。その話までしてたら時間が足りねぇ」

先んじて釘を刺せば、彼女も和んでいる場合じゃなかったと思い出したらしい。
真剣な顔をしてわかった、と、少女は素直に頷いて

「姐様が戻ってきたら教えてね。 …それで…、アレは僕が狭間の…
 あっちとこっちの間で生まれたのが関係ある…というか原因なの?」

ここまでの話を振り返って問えば、青年は困ったように少し眉尻を下げる。

「そうだ、と言い切れれば良いんだが。とりあえず、アレが冥界関係なのは確定だ。
 しかも相当『性質の悪い』部類のものだってのも」
「性質の悪い…?」

疑問の声は青年と幼子を除く三人から。
さてどう話したものか、と、青年は思案するように少し見上げて言葉を選ぶ。

「…この部分は俺も推論でしかないって事を前置きさせてくれ。黒沙に確認したわけでもない。

 俺が疑問を持ったのは、スィンとシークの差だ」
「僕と兄様の差?」
「あぁ。冥界関係者が『こちら』に存在する際に制約を持ってしまうのは珍しい話じゃないが、
 それにしたって同じ両親から同じ場所で生まれてるのに、兄は数ヶ月の滞在で命を削り
 片や妹はほぼ影響なく数年に渡って滞在し続けていられる。
 正真正銘生まれ持った性質ってのも多少はあるだろうが、それにしては…と思った」

そこで一旦区切り、青年は少年が淹れ直した茶に口を付ける。
絡まった言の葉を解すように、ふわりと香りが鼻腔を擽った。

  • 2016/06/05
  • 創作モノ::幕間/AUC