side:翼人
俺とシーク…スィンの兄との付き合いはオリジナル時代にまで遡る。
当時からアイツが狭間出身だという事は知っていた。というよりも、彼らの両親が
冥府に降ったのを知ってたからな。母親とは魂が繋がっている者同士の交流があったし。
で。その当時は全然気にしていなかったんだ。そもそも彼女が冥府から
俺に会いに来る時は時間制限があったし、その息子が半年程“表”に出てきた時
陽に弱いんだと聞いても、半年程の滞在で酷く身体を損ねても、そういうものだと。
それが覆ったのはスィンが来たのが切欠か。
初めて会った時に兄とは護りの術の気配が少し違うとちろっと思ったもんだが
“表”に滞在する際の制約は兄と同じだろうと、翻訳の護符にその辺の影響を
減らせるような術式も混ぜて送り出した。
結果、兄とは違って全く陽の影響を受けなかったわけだが。
勿論影響を受けてしまいそうな冥府行きだけはディドに頼んでさせなかったし、
スィンが居たパーティの誰もそれを望まなかったのもよかったんだろう。
俺はそれが俺の術式が効いたんだと思っていた。
そうではなかったと知ったのは、スィンが来る前、シークが俺の代理として来た時だな。
妹に効いたのだからシークにも効くだろうと、強化序に同じ術を掛けといたんだが
結果は効果無し。命が削れるまで居たわけじゃないが、少しずつ少しずつ磨り減るのを
ダーシェが確認している。俺も戻ってから僅かではあるが削れているのを確認した。
兄妹でこれ程の差異が出るとは正直吃驚した。
先も言った通り、それぞれが生れ持った性質ってのも多少あるとは思うが…な。
流石に気になって調べたさ、そもそも二人が持っていた護りは
黒沙が掛けたものだろうから、ダーシェにも協力を仰いだ。
結果、シークの制約は幾ら狭間の生まれとはいえ大きすぎる、という事が解った。
自ら降りた両親は自分達を戒める意味でもこちらに長くは居られないが
シークは単に狭間で産まれただけ、両親も亡者ではないから、
基本的に冥府出身の種族扱いでいいはず。
そ、お前と…お前のオリジナルと同じってわけさ、Gie。
アイツも少々陽は苦手だったようだが、だからって来て1年…どころか数年は元気だったろ?
帰る前は大分弱ってたが...まあそれはいい。
では何故シークの制約はそんなに大きいのか。
十中八九、さっきの『アレ』に取り込まれかけたからだろう。
や、今日の事があるまではあくまでそういう推測でしかなかったさ。
陽に弱くて“表”に長期滞在できないってのは、冥界所属の中でも負が強いというか
性質的に亡者というか…死が濃い、と言って伝わるか?
シーク自身がそういう性質に変わってしまうような出来事が過去にあったんだろうと。
ちらっと感じた『アレ』の気配は負と穢れも強い、本当に性質の悪いもんだったし。
襲われたのは物心付く前、下手すりゃ赤子の頃だろう。
母親たる黒沙が「よくないもの」に対して守りを備えなかったとは思えないが……
生まれ持った『冥界との縁』に紛れられたらただの結界じゃどうしようもない、
「よくないもの」とはいえシークの一要素だから。ここへ入り込まれたのと同じ理屈だ。
アイツの制約が発生した理由の推論はこんな所だな。
は?
あのな…、こんなこと黒沙本人に聞けるわけないだろ。理由?察しろ。
ま、兎も角だ。兄が狙われて妹が狙われない道理はない。
二人は本来“表”で生まれるべき存在だから、奴等には余計に魅力があるのかも。
これもまた推測の話ではあるが、シークと同じ轍を踏まないように
黒沙はスィンの時は護りの質を変えたんだと思うぞ。
術の気配が違うのは先も言った通り、ダーシェ曰くスィンの護りは
「目晦まし」の効果が強い、とのことだしな。
見つからなければ縁に紛れ込まれる事もないわけだから、理には適ってるだろう。
しかして所詮は『目晦まし』、いつかはこうなる可能性があったのも事実。
それが今日だったってわけだ。
尤も、今日までよく感知されなかったとも言えるかもしれない。
あちらに居る間は術者の直ぐ傍だし、物理的にどうにかしちまうような奴もいたし
イブラシルは世界が違う上にずっと偽名を使ってたしな、手が出なかったんだろうが…
そこで諦めてくれりゃいいのに、とんでもない執着だよな、ホント。
最初に言ったとおりここは空間の狭間、更には今一番ココと繋がりが深いのは
異世界と容易く繋がる黄金の門を擁するブリアティルト。
ここんとこ混沌が来たり、いつもと異なるブレを生じさせたりと色々あった上に
今回から少し世界のルールも変わったみたいだからな、その辺の揺らぎが
目晦ましの効果に影響したと考えるのが妥当だろう。
