「…とまあ、こんなところかね。確証のない話だが、そう外れてもいないと思う」
すっかり冷めてしまった茶で喉を潤して、青年は深く息を吐いた。
大分疲れて見えるのは気のせいではないだろう、こんなに一気に喋るのは珍しい。
自身の調整時についてもここまで長くはなかったなと男は思う。
そして自身と兄について語られた少女もまた、語られた内容を理解しようとしてか
難しい顔をして黙りこくっていた。彼女に出された二杯目の茶は全く減っていない。
「…おじさま」
「ん?」
「僕…どうしたらいいの…?」
今にも泣き出しそうな声で、少女がぽつりと戸惑いと困惑を零した。
いつもは勝気な光を見せる白藍がゆらゆらと不安定に揺れている。
知らずに済んできた多くの事を短時間に詰め込まれたのだ、少女の反応は無理もないだろう。
しかして青年は何を問うのかと言わんばかりに首を傾げた。
「どうしたらって…別に今まで通りでいいだろ」
「今まで通りって、」
スィン、と呼ぶ青年の声は苦笑を含んで柔らかい。
「今日何が起きたのかを説明するのに、諸々の話を避けられなかっただけだ。
お前が狭間生まれでも今まで何の問題もなかったし、これからもない。
――あ、『アレ』についてはもう心配しなくていいぞ?
実在する事とどんなものかの特定も出来たからな。二度目はない」
「………」
あっさりと安全宣言を出す青年に呆れたのは少年と男だ。
何時の間にそこまで対策をしていたのやら。面倒な事はしないと豪語しているくせに
こういう面倒事に関してはさっさと片付けてしまう。
「それにな、こうなったからにはあの夫婦も黙っちゃいないし
ダーシェだって暴れてくると思うから、流石に根絶するのはちと難しいだろうが
次まで最低でも10年は稼げるだろう。その間に強くなればいい。
強くなりたくて研鑽を積んでるのだって今まで通りだろう?
今まで通り過ごして、『アレ』を自力で叩きのめせるようになればいいのさ。
それまでは悔しくても守られてろ」
な? と宥められて。少女は大きく溜息をつき、わかった、と肩の力を抜いた。
今まで通りでいい、といわれた理由に感情と思考の折り合いが付いたのだろう。
その様子を見ていた幼子が、ぴょんと自分の席から降り立って
少女の膝上にひょいと飛び乗ると、これおいしいよーと茶請けを少女と青年に差し出す。
「疲れたときには甘いもの」と良く口にする青年の言動を真似たらしい。
そんな微笑ましい光景にちょっと笑って、少年は青年に問う。
「今回の件については了解しました。スィン嬢についてはよいとして
……ダーシェ嬢は本当に大丈夫なのでしょうか?
主人の話によれば随分と厄介な相手のようですが」
「あれ。ディド、お前さっき俺の話聞いてたよな?」
「ええ。心配するだけ無駄だ、と聞いてはいますが」
念のため、と言う少年に、青年は幼子から貰った菓子を齧ってからそうだなぁと呟く。
「暴れすぎやしなかっていう心配なら、してもいいかもしれないな」
「「え?」」
