side:ダーシェ
ぞろりと肌の下を這う感触、端的に言って気持ち悪いそれをぐっと奥歯を堪えた。
これが長続きしないことは知っている。気色悪いのはほんの数秒のこと。
現に3をカウントした当たりでふっとそれは消えた。
それと同時に先まで感じていた圧迫感も消え、ふ、と閉じていた目を開ければ
広がっていたのはひたすら闇。 …いや、黒、か。
それにしても…本当に世界を超えて、ヨクトの結界もすり抜けて来るなんて。
初めて相談された時には耳を疑ったものだけれど、実際起きたのだから
あの子の…慧眼というには足りないから、勘ね…は素直に凄いと言ってあげましょう。
とりあえずスィンちゃんを連れて行かれることは阻止できたようでよかった。
…でもこの状況は驚かせたかもしれないわね。
ヨクトはこのことを伝えてなかったみたいだし。
はぁ、と溜息一つ。
此処がどこか、なんて、そんな疑問はない。
今までは推測でしかなかったものが、先程起きた事で現実になったのだし
どこなのかは明白だ。
さて。
一応私も世界を超えることは出来るし、ヨクトのことだから私が帰ろうとすれば
手助けはしてくれる…とは思うけれども。帰るよりも優先したいことがある。
「ふふ。お目当てと違って困惑しているようね? 残念でした。
私の可愛い姪っ子に、私の目の前で手を出そうなんて。
…随分舐めた真似してくれたわね」
ゆらゆらと戸惑うように揺れる黒の奥へ向けて声をあげれば、思いがけず低い声が出た。
あら。私、結構怒ってたみたい。
これは……彼女の母親――“私の可能性の一つ”と同調を起こした、かしら?
此処は彼女がいる場所にとても近いし。
…うん。
息子のみならず、息子の二の舞にならぬよう魂を削りかねない術を使ってまで
護ってきた娘に手を出されて怒らない『私』ではないものね。
私自身、私の姪と言ってもいい存在に手を出されて凄く不愉快だし。
すっと右手を翳せば即座に現れる漆黒の斧。先の巡り、私が愛用した黒の蝶。
「ちょっと反省して貰うわよ」
笑みを浮かべて言い捨てれば、ざわり、と、黒が騒ぎ出す。
あらあら、あんな強引な手を使ってきた割には随分と情けない奴らだこと。
だからといって遠慮などしないわよ。
うふふ。
ここでならどんなに暴れても大丈夫そうだし…さあ…私と踊りましょ?
大丈夫。時間ならたっぷりあるわ。
