「…で、こいつ中に入れたって訳か?」
「はい…困っていらっしゃったようでしたので」
余りにもカーシャにそぐわない格好の青年と己の使い魔である少年を交互に見る。
諸々の事情でアトリエに丸一日以上篭り、そのまま転移を用いて依頼主の所へ行き。
無事納品を済ませてアトリエから出てみれば、使い魔達以外の見慣れない顔。
人当たりの良さそうな青年…という印象のその人物は浅黒い肌に相反するような
上から下まで白い装束。そして独特なアイメイク。
翼人の記憶が正しければ、この装束と化粧の仕方は異邦の砂漠の民のものだ。
(何で砂漠の民がこんなとこに居る?)
しかも少年の話によれば、何者かに追われていたらしい。
あちこちに見える真新しい包帯も追手によって負った傷と言う事か。
それらの追手は全て番樹によって排除されたとの報告に、モミノキモドキちゃんと
番樹になるんだなぁという斜めな感想を抱いた翼人は直に思考を元に戻す。
そんな厄介事を抱えた人物を匿う気はあまりない。
番樹程度に追い払われる追手なら彼らの相手ではないのだが…、そもそも面倒事はごめん被る。
今晩は兎も角明日は出てもらうぞ、と言い出そうとした翼人を牽制するように、少年が言葉を重ねた。
「それに、イディが」
「イディアが?」
「……お怪我をさせてしまったものですから…」
予想しなかった言葉に、彼は視線を青年に固定した。
よくよく見ればあちこちに巻かれた包帯は、かなり不揃いに当てられている。
使い魔二人が不器用ながら何とか手当てしようとした結果らしい。
その下の傷自体にも簡単な治癒魔法を施されているようではあるが…
「…お怪我つーより大怪我だな…」
「ごめんなさい…」
先程からもう一人の使い魔である幼子が大人しかったのはこのせいか、と翼人は苦笑した。
イディアの攻撃魔法は制御が効かない分容赦がない。その威力は制御未熟である故に
攻撃に特化しきっている分、翼人のそれを上回る。
よくもまぁこの程度の怪我で済んだものだ。
「イディのせいではありません。僕が不審者が来たら破砕していい、と言ったので…」
「まぁその辺は良いさ。過ぎたことだしコイツ生きてるし。
とりあえずお前達が怪我させたってなら…事情はともあれ
少なくとも治癒完了までは保護してやんねーとか…」
ま、幸い部屋は余ってるしね、と一つ肩を竦め。
成り行きを黙って聞いていた青年に向かって初めて声を掛ける。
「そーゆーわけで、暫くお前さんの身は俺が預かるよ。
ああ、俺の名は双つ姿の翼人…まぁ適当にヨクトとでも呼ぶと良いさ。
こっちはディドにイディア、俺の使い魔。お前さんの名前は?」
「ナセル・・・ナセル・マイヤ・ジプティン。恩に着る・・・」
こっちにも負い目があるから気にするな、と苦笑交じりに笑う翼人は知る由も無い。
ナセルと名乗った青年が、動く木―――モミノキモドキの姿に驚いていなければ
翼人の大農場に大穴を開けて一直線に逃走を続けるつもりだった事を。
否、モミノキモドキに驚いた後も能力が使えたなら、やはり大きな風穴を壁に施した事を。
そして。
「ちょっと、ねえ、どういうことか説明してもらいたいんだけど」
ナセルと名乗った青年を保護した翌朝。
何やら疲れきった顔で訪ねてきた花エルフが、ナセルの顔を見た途端、物凄い剣幕で翼人に詰め寄る。
「どういうことって。だから何の話して…」
「だから!君のところの同居の人なんでしょ、あの人」
「ああ、俺も顔合わせたばっかで事情があんまりわか」
「それでね、昨日の夜なんだけど。君の所の同居の人が俺の部屋の窓ばりんの壁どかんで
風がびゅうびゅうなんだけど、どうしてくれるの?あの魔石だって、大きくなーれって育ててたところだったのに」
「はあ?状況がまったく掴めない説明だな。それ俺のせいじゃねぇし。でもまぁ、災難だったな」
「でしょう。だから責任とって」
「責任って…いや、つーかとりあえず部屋は魔法で直せよ。出来るだろ?」
「ふさぐことはできるけど、現状復旧は本業じゃないから無理!
まだ大家さんにはバレてないからいいけど、請求きたらこっちに回すからね」
「本人に回してくれ…」
やっぱり保護せずに追い出せばよかったかもしれない。
後悔先に立たずとはよく言ったもんだ、と、翼人は溜息をついた。
