人形は夢を見た。
後ろ髪引かれる想いを断ち切って昏い洞穴に踏み入る。
底のわからない深い深い闇に灯りも持たずに。
それでも、何故か自分達の姿を視認することはできる。恐怖は無い。
歩き始めて程なく、奥から何かがやってくる音を拾う。
それが複数の足音だと判った時には、行く手にぼんやりと人影が見えていた。
―――冥界軍先発隊。
頭に自然とその言葉が浮かぶ。
国王の誰かに呼ばれたのか、それともムゲンの指示によるものか。
いずれにしてもどこかの国に破壊をもたらす少数精鋭の彼ら。
明確に敵と認識できる相手 ―――ほんの少し前であれば。
同じ領域に踏み込んだ身ではもう関係のない話だ。
むしろ自分も先発隊に駆り出される事があるかもしれない。
そんな思いを抱きながら着実に近づいてくる人影達を眺めて。
彼らの一人に見覚えが有る事に気が付いた。
…まさか。
はやる鼓動を静めようと、痛みの残る左胸に手を当て。
何度も瞬きを繰り返す。見間違いでは無いのか?
理性は確実性を求めて五感を駆使し、証拠を掻き集めようとフル稼動する。
だが直感で解っていた。判らない理由が、間違える理由が無い。
驚いたまま立ち尽くす目の前を、彼らは悠々と進んでいく。
その中の一人、紅い鎧の人物がちらりと視線を此方に投げ
片方の口角を上げると音の無い言葉を寄越す。
次の瞬間には何事も無かったかのように前を向き。
彼らは一瞬前と同じ様に進んで行く。
それを呆然と見送って。
溜息と共に低い天上を仰ぐ。
ぁの、バカ。
こっちから探す、だから不要だと言ったのに…
込み上げる想いに、つ、と熱が頬を伝い―――
「―――ト、ヨクトってば!」
「…ぁ…?」
「もーっ。おきてよっ。ヨクトがいちばんネボウだよ!」
ぎゅっと握られた腕に突き刺さる鋭い痛み。
躯を走る電流に夢の残滓は追い払われ、現が頭に叩き込まれる。
「ぃ、って!」
「はーやーく おーきーて~~~っ!」
「わーった、起きる! 起きるから放せ。流石に痛ぇってば」
この乱暴もん、と苦笑しながら翼人は上体を起こした。
分厚いカーテンが大半の日光を遮っているのに、部屋の中はかなり明るい。
(あー…確かに寝坊だな)
ふあ、と背伸びしながら大きく息を吸った拍子に、涙が零れ落ちる。
欠伸の付属にしては妙に多いな、と。夢を失った人形は暢気に思った。
