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幕間:空中散策

「よう、邪魔するぜー?」

引き篭もり完了、という噂を聞いて友人宅を訪ねる。
意外と久しぶり…友人が篭る前は俺がひっくり返ってたからなぁ。

「ヨクトー」
「彩か。元気そうで何より。 ―――ユエは?」

走り寄って来た赤い目の兎を抱っこして優しくその頭を撫でる。
…が、左の金の腕輪がきらりと光ったのを見て、直ぐに撫でるのをやめた。

「ちょっとわすれものとってくるっていってた」
「そっか。じゃ、直戻ってくるな」
「なにかおとどけもの?」
「ん? いや。遊びに誘いに来た。空中散策しねぇかって」

続き
「じゃあ着替えないとね。幾らヨクトでも流石に重いでしょ」

戻ってきたユエに空の散策に行かないかと誘って、返って来た第一声がこれ。
まあ…確かに。
ユエは普段着からしてどれだけの布量を使ってるんだという程
ゆったりとした服を何枚も重ね着している。
布量だけで相当な重さになる上、空気抵抗も凄くなるのはそうなんだが。

「ああ、大丈夫。元々お前を抱えていく気ねぇし」
「え?」

どういうこと、と問いかけたユエに一枚のストールを投げて寄越す。
俺の得物でもある、風と水の魔力で織られた布…テティスを。

「手綱ねぇからしっかりそれ羽織ってろ。そいつ羽織ってれば大丈夫だから」
「は? いや、だからどういう―――」
「見てりゃ判る。 んじゃ、とりあえず行きますか」

にっと笑って席を立ち、二人より先に外に出て。
二人が追いつく前に意識を集中させ、念じ、求める。
この姿を為す際に定めたもうヒトツの姿を。

一瞬の閃光と共に姿が転じる。

―――前は鷲、後は獅子。
所謂グリフォンと呼ばれる魔獣に類似した巨躯。
違いは金の羽毛ではなく、白から薄緑へのグラデだってこと位。
人型の時と変わらないのは眼の色と翼の色、それから前脚の金と銀の腕輪だけ。
俺の後について外に出てきた二人が、息を飲むのが聞こえた。

『…襲いやしねぇよ。ほら、乗れって』

体勢を低くしてユエと彩を見、思念を飛ばして促す。
遊び半分で設定しておいた姿だが、こーゆう時には役に立つ。
すなわち、誰かを飛んで運ぶ時には。
ディドの本来の姿に乗って…って手もあるが、ディドは誰かを乗せて
長時間飛べるほど余力があるわけじゃないからな。
俺やイディアが乗るなら魔力の共有ができっから平気だけど。

そんな事を考えているうちに背中にもぞもぞとした感触。
俺の身体がでかいからなのか重さはそこまで感じない。

「ね、掴まるトコないの? 落ちそうな気がするんだけど…」
『だから、テティス羽織ってりゃ大丈夫だって。そいつは風の魔力で出来てるし
 俺の魔力にもよく反応するからな、勝手に身体を安定させてくれる。
 ついでに言えば余計な風圧とかも感じなくなるはずだ。

 と、余計な力は抜いておけよ。変に力入ってるほうが危険だから。
 ―――んじゃ、行くぜ』

ゆっくりと体勢を起こし、翼を大きく広げ。
少しだけ風を呼びながら大地を蹴り、力を篭めて羽ばたくと、ふっと躯が軽くなる。

『何処へ行きたい?』
「どこでも!
 思いっきり高いところ―――あ、王宮の一番高い塔の上とかは行きたい」
『OK。じゃ、まずそこからだな』

…ふと、この姿で空から行ったら警備兵に襲撃されるんじゃ、という考えが過ぎったが。
まぁ結界張っておけば大丈夫だろと楽天的に考え直した。
弓を射るにも上位者の指示がなきゃまずねぇだろうし、万一射られたとしても
俺の結界をただの弓で破れる訳が無いし。それにユエが乗ってんだから。
珍しい騎獣で終わるだろ、と。

更に力強く羽ばたき、時折四肢で風を蹴って速度を増しながら
一路王宮を目指し、空を疾駆する。

上空の風は心地よい冷たさで、空中散策には最高の日になりそうだった。

  • 2011/08/02
  • 創作モノ::幕間/KOC