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幕間:衝動抑止

ゆらり。

今は只の装飾布として纏っているだけ、であるはずのTethysが揺らめき、
大気を歪ませ鋭い刃を持つ氷を次々と生み出す。
まるで溢れ出す怒りの感情をそのまま顕したかのように、次々と。

俺自身はTethysに一切の魔力を注いでいない。
しかし、特殊な創り方をされたその布には明らかに魔力が注ぎ込まれていた。
しかも尋常な量ではない。

俺以外にこの布を扱える魔力を注げるのは、只一人…

続き
『ああああああああああああああああああああぁっっ!!!!!』

躯を内側から壊してしまうのではないかと思うほどに強烈な魔力が
本人格の叫びと共に、俺の精神を経由して更にTethysに雪崩れ込む。
と同時に、烈火の如き怒りの感情が“俺”をおも押し潰す勢いで溢れていく。

(なんつう魔力の量さね…っ)
「―――――――――――――――――――――――…っ!」

暴発しないように魔力制御を試みるものの、轟、と大地をも振動させる程の
暴風が周囲に弾け、その風に乗って氷の刃と真空の刃が好き放題に暴れ狂う。
狂気の暴風に大地は抉られ、木々は切り刻まれ引き抜かれ、岩をも砕かれ
俺の魔力制御を振り切って跡形も留めないほど破壊し尽くす

――その一歩手前で、唐突に止んだ。


「~~~~~…ふー………」

短時間とはいえ全力で魔力制御しつつ自我を保った反動か、物凄く躯が重い。
服が汚れるのも構わずに、傷つけられた大地の上に大の字に転がる。
…うあー…、すっげぇ疲れた…

『…ふう。あれ? ちょっと椰子?大丈夫?』
「……これが大丈夫に見えるのさ? ったく…憂さ晴らしもいいけど、加減しろよな」
『ごめんごめん。 …ちょっと久しぶりにキちゃったものだから』

でもコレで落ち着けるようになったんだからちょっとは成長したでしょ、と
笑う本人格に俺は深い溜息をつきつつ応じる。

「まあな…、出来ればこんなことなしに制御して欲しいもんだけどさ」
『それが出来れば苦労しないわね。元々理性より感情派だしー。
 ま、さておいて。今回の“お兄ちゃん騒動”は仕方ない、プルトスはくれてやるわ。
 傭兵の奴等は兎も角、アリシアさんに危ないことして欲しくないし…
 戦闘回避して渡せるならそれが一番安全なんだけど…』
「どーもそれは無理そうさね」
『なのよね…はあ…アリシアさんに怖い思いさせちゃうのが一番嫌なんだよねぇ…。
 ………彼女に大怪我なんかさせてみなさい、絶対許さないから……』

ゆらり。
布に戻ったはずのTethysが再び本人格の感情に呼応して揺らめく。

「! 落ち着けって!」

どうもこの布は俺よりも本人格のほうに相性が良いらしい…厄介なことに。
更に厄介なのは俺より本人格の方が魔力が高いこと。普段は制御力が低いから
無意識に使用量を抑えているだけで、感情を糧に魔力を爆発的に増やすのは
物凄いものがある。さっきのがいい例、正気を保っていてアレだ。
意識というリミッターが切れたら正直俺にもどうしようもない。

『…、っと…、ごめん。
 ま…油断してた私も悪いけど。クランは冒険をスムーズに進めるための手段だし。
 それに逆に固執してたら駄目になっちゃうから、ここはすっぱり諦めないと。
 ……楽しむためにこの世界にきたんだもの』
「ああ。 さってと…いつまでも寝転がってる場合じゃねぇな、心配掛けないうちに
 赤眼に戻らないと…。ああでもダリィ…」

全力で戦闘したよりもずっと疲れてる気がする。
――さっきので魔力が外に出ちまった、ってのも関係していそうだ。

『甘いもの食べたら? 色々お返しを貰ったじゃない』
「そーいや、何か一杯貰ってたさね…」

転送関係でちゃんと良く見てなかったな、と、改めて異空間に格納していた
それらの品を取り出してみる。

士凰から
・白いリボンのかかった小さな袋に入った、士凰とそのご友人のお手製クッキー。
 形が少々いびつなのはご愛嬌。
・キラキラと小さなラメが光る真っ白な紙包装と白いリボンでラッピングされた、
 両手の平くらいの大きさの箱入りホワイトチョコレート。エルクアールにある店のらしい。
 一口サイズで、細かなパウダーシュガーがかかっている。

士皇から
・士皇お手製の、絶品ホワイトチョコクッキー。
 濃紺色の包装紙に、銀色のリボンのかけられた小箱で。

イニャスから
・お手製の濃い赤茶色のクッキー


…あの超適当果物のチョコレート掛けの御礼にしちゃ、皆随分手が込んでいる。
特に士凰と士皇は包装まできっちり…マメすぎるさね。
俺もお返し用にレアチーズケーキを幾つも作ったけど、包装までは気が回らなかった。
うーん、流石だな。男が違うぜ。

「しかし…貰いすぎじゃねぇさ?」
『かなぁ? ま、良いじゃない、好意は素直に受け取っておきましょ』

そうだな、と、有り難く好意を頂く事にして。
まずイニャスから貰ったクッキーから口に含み   ―――刹那、硬直。

イニャスから貰ったクッキーは、かなりの魔力を秘めていて、一口で
一気に体力が回復した気はした…が。
それは、独特の鉄臭さを伴う味の…BloodCookie。
しかもそれが黒龍の血だと知ったのは、この後赤眼の塔に戻ってからの事である。

  • 2010/03/16
  • 創作モノ::幕間/DK