刃を進める度、血が滴り、跳ねる。
それもそのはず、つい今しがたまで動いていたものを解体しているのだから。
白い翼持つ者が血塗れて龍を解体する様は、ある種背徳的というか、
倒錯的というか…いろんな意味でスゴイ状況になっていると思う
――――本当に血塗れてたら、ね。
幸い、得物であるTethysの能力でそんなことにはなっていない。
真空の刃…いわゆるカマイタチで斬っているから、そこまでの返り血はないし
返っても水の薄い膜で防護しているから血まみれになることもない。
切り取ったものは取った端から氷結させてるし。
とはいえ、通信機で初音さんと喋りながら鱗を剥いでる直ぐ隣のラルフから
うわーって視線を感じるから…それなりにすごい光景にはなってるんだろう。
他の皆は勿論近寄ってこない。
…ま、当然ね。嫌われないだけマシってものだ。
「それにしても龍でキドニーパイとか…凄い発想」
「あはは、まぁ、イニャスのお陰さ。あいつがブラッドクッキー作らなきゃ
思いつきもしなかったと思うさね」
でも面白そうだし、何より効力高そうだからいいだろ、と半透明の椰子は笑う。
だったら自分で採取してよ、って思うけど、捌くのは私が得意なのも事実だし。
調理自体は椰子に押し付ける気満々だからお相子か…な。
「しっかし…最強最悪と噂されるだけあって、手ごわい相手だったさ…」
今しがたの戦闘を振り返り、椰子はふーっと深い溜息をつく。
黄龍の最初の咆哮は、聞くものの精神を掻き乱す――私たちも例外じゃなかった。
人形の躯だからもしかして効果ないんじゃ、って思ってたのは甘かったね…
使い魔達まで皆敵味方がわからなくなって、同士討ち状態だったし
その間にも黄龍はブレスを見舞うわ、罠をばら撒くわ、旋風を起こすわ、
尻尾を振り回すわの超猛攻。
でもラルフとイニャスが混乱しながらも皆に治癒魔法を掛け続けてくれ、
酷い同士討ちをする前に全員正気に戻ることが出来。
黄龍から受けた傷もリュア、クロム、ファルーの回復魔法で直ぐ癒し…
久しぶりに召喚したにも関わらず、ナムタルはいい動きをしてくれて。
そして何より、あの怒りの歯牙を一撃も喰らわずに済んだのは大きかった。
青龍で動きがわかっていたからか、イニャスは見事に攻撃を回避、
ファルーも守護魔法をタイミングよく唱えて、攻撃自体を無効化してみせ。
イニャスの銃で奴の両手足の骨を砕き。
誰も倒れることなく黄龍を倒せたのだ、結果だけみたら大勝だろう。
それを椰子に言うと、彼は苦笑いを浮かべた。
「結果だけなら、な。でも、ラルフ、イニャス、クロムは魔力尽きかけてるさ。
大勝って言って良いのか…この後に支障がなきゃいいんだが…」
そう言って、心配そうに仲間達を見回す。つられて、私も皆を見た。
特に消費の激しかったメンバーの一人、クロムは魔力回復薬を服用している。
今回初めて無詠唱回復魔法の上級クラスを使ったせいで、相当消費したらしい。
まぁ薬を飲んだんだから、もう大丈夫。
イニャスは薬を飲んだりしてないけれど、元々予め罠を作って置くタイプだから
治癒魔法を使わなきゃ問題ない……って言ったらまた凹まれるかな?
イニャスには後で龍料理を食べて回復してもらおう。
ラルフは…帽子を心持ち目深に被っているので表情は良くわからない。
ファルーが心配そうに声を掛けているし…何か余り良くない感じがする。
なんとなく、という程度なので気のせいかもしれないが………
「………大丈夫だよ、クロムもイニャスも私たちと一緒だし。
ラルフだってアリスさんとめるぎとの人たちと一緒だから。
それに初音さんとノアトゥーンで待ち合わせてるんでしょ?
LOVEMAXな彼なら彼女を泣かせたり困らせたりするようなことは絶対ない。
うん、間違いない」
「―――――――…そうだな」
半ば、祈るような声音になっていたことに、恐らく椰子は気がついている。
この世に絶対なんてモノは本来はないから…今のは祈りの言葉に等しい。
堕天使かつヒトでないものが呟く祈りの言葉は、果たして本当に祈りとなるか、
それとも呪いとなるかは微妙だが。
椰子はただ静かに頷いて、仲間達に視線を向けつづけていた。
