記:ディド
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殺意に近い敵意が篭められた魔力の塊を、彼は瞬時に現した剣で祓い退けた。
払ったのではない。祓ったのだ。
キィンと奇妙な音を立て、魔力の塊は大気に融け、周囲には何の被害もない。
――不意打ちに近かったにも関わらず反応できたのは、単に彼の経験の賜物だろう。
「……随分なご挨拶じゃないか。お前じゃなかったら斬り掛かってたぞ?」
武装を解かぬまま、それでも相手に一切の敵意など浮かべず
彼は姿を隠したままの相手に声をかけた。
軋ませて音を立てないよう、慎重に、ゆっくりと時間をかけて、彼は扉を開いた。
開ききったところでそーっと頭だけを扉向こうへ潜らせ、左右を確認する。
日付変更などとっくに過ぎ去った、深夜も深夜の出来事である。
そんな時間にこんな怪しい動き、事情を何も知らない者が目撃したのなら
泥棒にでも入ったのかコイツ?と疑われてもおかしくない。
勿論、彼は盗みに入ったわけではない。
きちんと招かれて正面玄関から入り、許可を得て蔵書を読んでいた。
熱中しすぎて深更まで居た…ただそれだけなのだが。
「……やっぱりか…。…ちとまずったなぁ…」
扉を開けて確認できた光景に、彼は溜息混じりに呟いた。
それもそのはず。
廊下があるはずの場所に廊下はなく、全く違う光景が広がっていたのだから。