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事件は突然に

逃げていた頃の夢を見た
皆で野宿して火を囲った最後の晩だ
あまりにリアルで、またあの時に戻ってしまったと錯覚した

続き

それなら、明日は独りになってしまう
先に寝てなさいと諭す供に寄り添って眠る
こうやって、捕まえておけば離れ離れになんかならないんじゃないかと、運命にあがらうように

…。
自分の目尻からこぼれた涙が唇に触れて目を覚ます

腕の中の温かな感触を、名残惜しいとばかりにきつく抱きしめた

・・・!?

なんだか良い匂いがする…
それにカリームってもっと骨ばって胸板厚かったよなと不思議に思い、腕を解いて顔を上げて見ると…

「だ…誰!?」

まだ婚約者も恋人もいない彼はドキマギしながら、起こさないように身を離す

この子は一体どうしちゃったんだろうと、訝しげに眺めると
見たことあるような…ないような…
頬に蝶のような模様がある
故郷の砂のように煌めく長い金髪
お見合い写真で見たどの女性よりも、美人さんだなぁとしげしげ眺めた
それから自分の大好きな和文化の服を着ているのを見て感激の声をあげる
「キモーノ!」
なんだかウキウキしてきたが、
くしゅんとクシャミをして、何故か自分が薄着であることに気付いた
しかも着ていた服はそこら辺に服が散らばっている
念のため帯を開いてみたが、携帯品は何も失っていない
(お、おれ何をされちゃったんだろう?!)
…ちじょか?!
脱がされた服を拾い集め、急いでカフィーヤを見つけると慌てて頭に巻きつける
それから、残りの全てを着込む
見覚えのある明かりの灯ったランプに気付いてそれも拾った
(しかもどこここ?!)
あたりを見回すと、街の灯りらしきものが木々の間から見えた
ここがどこだかよく知らないが、とにかく灯りがある場所へ行こうと決めて立ち上がる
日がくれて大気が冷えこんできたし、こんな場所に無防備な女性ひとり残すわけにはいかない

寝ている彼女をお姫さま抱っこすると街に向かうことにした

腕にしていた金の華奢な鎖を代金代わりに宿を借りた
ふかふかのベットに彼女を寝かす
反対側のベットに腰掛けて、彼女を眺める
あの蝶の模様は、物凄く記憶がある
(なんだろう、今「眠り姫」とかいう言葉が浮上してきたのは)
やはり、自分がかどわかしたんだろうか…
お酒の勢いで?
小父さんの静止を振り切って?

自分は酔ったら、速攻寝るタイプで迷惑なんてかけないと思ってたのに…違うのか?
(…なんだろう、今、ラベンダー風呂という言葉が浮上してきた)
もし、無理やりちょっかい出したとかだったら、起きた時たいへんだよな…
家人に報告いったら、どんな顔されるんだろう

悲しい顔や、軽蔑の視線が…

…想像してナセルはばっと立ち上がった
「ご、ごめんね…っ」

走って部屋を出て廊下を進み、突き当たりの階段を三段降りたところで、浮遊間と共に辺りが白い光に包まれた
気付くと、さっきの彼女がいる部屋の中にいた
(…!????)
何度か試したが、相変わらず同じ現象が起きた

なんだ?!

もしかして…この子と離れられないのか??
…いや、自分は今、ほんとに最低な男の行動をとった
きっと神様が怒ったのかも知れない…

椅子に座って、とんとんと膝を指で弾きながら、あれこれ思案するが、
考えが纏まらないので、諦めて腰を据えて目覚めるのを待つことにした
携帯用の青いガラスの水タバコを取り出し
火をつけると、窓辺に腰掛け吸い口から重たい煙を吸い込み
月に向かって、ふうと吐き出す
その姿はとても様になるが、実はただのお子様用のフレーバーの甘ったるい香りの水タバコである

ええと…

起きたら、なんていえばいいかな
はじめまして、あの、昨日、おれなにかしましたか?

…。
いや、おかしいだろ…

こういう時、どうしたらいいか、
大学でもアジーズにも教わってないよ!
教科書にも曾祖父の本にも載ってない…

とりあえず、自分悪くないかもしれないし、謝ると誤解される場合もあるし…探りも必要だ
爽やかに、おはようって挨拶してみよう!
そう纏めて、心をリラックスさせる為に、ストロベリーフレーバーをのんびり味わうことにした

その背後のテーブルの上で、もう油もきれているのにランプがこうこうと部屋を照らしていた

  • 2012/12/02
  • 記:ナセル